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第六章 13

「具合はどう?」  オフホワイトの薄手のタートルネックセーターに、ふんわりとしたパンツを穿いている。  イメージとしては、やはり天使が女神。  しかし、近づいてきた顔を見ると、昨夜のヘヴィメタルな女だった。 「あんた……昨日の」  ずきんっと頭が傷んだ。見た目とは違い、酒や煙草はやらない。飲んだくれの親父を見てきたからか。  初めて飲んだ酒で完全な二日酔いだった。 「いいよ。もうしばらくゆっくりしてれば」  ペットボトルの水を差し出されて、ごくごくと喉を鳴らす。 「意外。のしてるのにお酒弱いんだ」 「弱いっていうか、初めて飲んだし、飲むつもりもなかった」  そう言いながらはっと気づく。  上半身裸だった。  左上腕から左胸にかけて、薔薇の蔓のような紋様が描かれ心臓の辺りには真っ赤な薔薇が咲いていた。  女の指先が肩からその赤い薔薇まで、つっと滑り下りてくる。 「綺麗だよね」  その仕草が余りに妖艶で、女神から途端に娼婦の雰囲気が漂う。  永遠は咄嗟に自分の下半身に視線を走らせる。昨日穿いていたジーンズのままだった。身体的にも、何もないと感じる。 「なあんにもなかったよーーでも、貴方とても好みだし、可哀想だったから、慰めてあげようとは思ったよ、勿論肉体(からだ)で」  ふふっと、ちょっと笑うだけでも、くらっとくるような華がある。  酔いはまだ残っていたし、どっと疲れが出てベッドに寝転んだ。女は隣に寄り添った。  少し話をした。  端々で感じていたように、やはり女は肉体(からだ)を売って生活しているらしいことがわかった。  帰り際。  財布の中身が電車賃ぎりぎりだったことに気づいた。  永遠は胸に揺れるネックレスを外し、女に渡した。 「何もなかったんだし、貰えないよ」  そう言う女に『それでも世話になったから』と押しつけてその部屋を出た。 ★ ★ 「……このネックレスは、あの時『あの女』に渡した……」 「そう、それが、オレ」 「え……」  そう言われてまじまじ顔を見ても、似ているとか似てないとか以前に、顔は朧気にしか覚えていなかった。 「ーーオレ、あそこでは女の格好をして生きていた。でもあそこにいた連中はオレが男だってことは皆知ってて、あの日初めて来たおまえだけが知らなかった」  チェーンのほうはウイの手にあり、それをトワの掌の上に落とした。 「オレの実家は代々続く名家で、オレは三人兄弟のうちの、出来損ないの次男だった」 「出来損ない……?」  軽く頷くウイの顔には自嘲気味の笑みが浮かんでいる。 「良くある話じゃないか? 跡取りの長男は勿論、三男も頭脳明晰成績優秀。親には従順。オレは別に頭は悪くはないと思うが、何かにつけ親に反発していた。入れられた私立のエスカレーター式の学校で問題ばかり起こしていたが、それは親も無視していた。無視できなかったのは、オレの性癖だーーーー」  

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