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第六章 14

「性癖?」 「女より男が好きってこと。当時はまだ恋愛経験はなかったから……端的に言えば女よりも男に性欲を感じるってことだ。恋愛的に好きじゃなくても、気持ちいいことはしたかったのさ」 「…………」 「トワとは違う。おまえは好きになった相手が男だったってだけだろ」  無言だった。  この言葉にトワは何を思うだろう。 「それが父親の耳に入って、治すようにと叱責された。治せって病気じゃあるまいし……その後の家族全員からの汚物を見るような目。耐えられなくなったオレはーー」  当時を思い出すウイは美しい顔を歪ませる。 「ーー高等部の卒業を待たずして家を出たんだ。転々と場所を変えーー流れついた先があのライヴハウスだった。最初はあそこで寝泊まりさせて貰って、バーテン、調理、接客なんでもやった。そのうち良く来るバンドのメンバーと仲良くなって、楽器を触わらせて貰った」  それが『BLACK ALICE』の『Cheshire cat』『ウイ』の始まりだと、公にされない、したくない自分の過去をトワに語った。彼には知って欲しい気がした。  トワには聞きたくない話かも知れないが。  話はまだ続く。 「オレは男は好きだけど別に女装が好きなわけじゃなかった。ただ、そのほうがウケが良かったから。あのバンドに正式に入った時に女の格好で始めた」  そこまで話して喉の渇きを覚える。  ソファーとセットのローテーブルの上に何本かの水のボトルを見つけて、立ち上がった。  背中にふっと息を小さく息を吐くのが聞こえ、トワも息を詰めて聞いていたのだろうと思った。 「貰うよ」  二本ボトルを持ち、一本をトワに渡す。  頭に掛けていたタオルを裸の肩に掛け直し、水を呷った。彼も喉が渇いていたようだ。 「オレは自分の居場所を見つけたと思い、部屋も借りた」  トワの隣にもう一度座り、一口二口水を飲んでから切り出す。 「でも生活はいつもかつかつで、時折店の客相手に何でも屋みたいなこともしてた。でも、ウリはしてなかったよ。ーー女装はしてても、自分の性癖はやはり話せなかった。あそこも古い町だったし。ある日、おまえみたいに外から来た男がオレを誘った。一晩を過ごすと、そいつはオレに金を渡して去っていった。オレはそういうつもりはなかったけど、こんなことが金になるんだって思ったよ。それからかな、何でも屋の中に『セックス』も入ったのは……男だけじゃなくな」  一息()いて、隣の男の顔をじっと見る。 「おまえのことは……カモにしようとか本当にそういうつもりじゃなかったんだ。店で寝ちまうし、とりあえずオレの部屋に連れていって……でも凄く好みだったんだよなぁ」  シャワーで血の拭われた頬を指先で撫でる。 「顔も……。脱がせてみたら……その肉体(からだ)も」  

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