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第六章 15
「金とかいらないから……と思ってさ。酔って意識朦朧としてたけど話掛ければ答えるし、このまま誘えば……なんてことを思ったわけだ」
にっと笑う口許が妖艶で、あの時見た『女』の口許と重なる。
(ほんとに……あの時の『女』はウイなのか……)
「ーーでも、おまえのそのタトゥーに触れながら、話聞いてたらーーまだ十代だって言うじゃないか。吃驚したよ。全然そうは見えないし」
あははと笑いながら、トワの頬から手を離した。
「これは手を出したら犯罪だと思ってさ。おまえに寄り添って話を聞きながら、一緒に眠るだけにしたんだ……おまえは覚えてないかも知れないけど……」
まっすぐ扉の方向を見つめている目が酷く寂しげだった。
その瞳にトワは胸をざわつかせた。
こんな寂しい目をさせたくないと思った。
「少し……覚えてる。すごく温かだったこと、誰かに優しく話し掛けられてること……それから、口許……天使か女神か、なんて思った……それで、なんだか安心して眠れた」
「天使か女神……」
ちょっと照れたように呟く。
「起きたら、娼婦だった、みたいな」
「…………」
自分の心読まれたかと思ったが、ウイのほうは照れ隠しだったのかも知れない。
「ま、何もなかったからトワはあの日会った『オレ』を『女』だと勘違いしたままだったというわけだ。朝起きた時も化粧してたしな。再会しても無反応な筈だ」
(そうだ。ウイはいつも化粧をしてて、素顔がわからなかった。ここに来てからも……。今日初めて見たのかも知れない)
そう思ってじっとウイの顔を見つめた。
「な、なに? 急にそんなに見つめて」
「シテる時も思ったけど、あんた、素顔も綺麗だよ」
「え……」
ウイの顔が朱に染まる。
「な、なに言ってるんだよ」
体温が急に上昇したような気がしてパタパタと両手で扇いだ。
(なんだ、随分と可愛い男だな)
トワは突然『ウイ』という人間が見えてきたような気がした。いや、今までユエ以外に興味が湧かなかったからなのかも知れない。
(俺も案外ちょろい奴かもな)
「ーーあの日」
少し間をおいて、顔の色が元の白さに戻った頃、ウイは再び口を開 いた。
「おまえの哀しみの一つをオレは担った」
「え? なんだそれ」
初めて会った筈の相手が自分の哀しみの要因だと言われ、トワは驚きを隠せない。
しかも、その『哀しみ』はどれもライヴハウスに行く前から抱えていたものだ。
「話を聞いててわかったんだーーおまえ、ユエ、いや結 の歌を聴きに来たんだろ」
「あんた…ユイのこと知って……」
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