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第七章 3

「アリスちゃんも……見ないよね、『あの晩』からかな……」 「そうか?」  トワは元々ユエ以外に興味がなかったから、当然アリスの行動など気にも止めていなかったのだろう。  ウイはそう判断する。軽く笑みを浮かべながら小さく溜息を()く。 「そうだよーーだから、今はオレたち四人しかいない」  少し躊躇してから。 「『あの晩』さ……バルコニーから外を見てたら……って言っても、ほとんど何も見えないんだけど。見えないのに、薔薇の間を何かが通って行くように感じたんだ」 「ふうん」  たいして興味もなさそうに相槌をうつ。 「何か、大きなモノを引き摺っているような……薔薇の(その)の奥のほうに向かって……赤薔薇と黒薔薇のあるところ……」  ウイのその不穏な言葉にさすがに少し考え込む。 「アリス……?」 「いや、ハクトさんかな? 引き摺ってるのは……ソウ、引き摺られてるのはハクトさんーー『あの晩』……ユエの面倒を見る為に隣の部屋を使っているソウがあんなに遅れてきて……それに、ソウの服に土の汚れみたいのがついてた……あれは、きっと……。ただ、あの騒ぎでアリスちゃんが姿を現さなかったっていうのがね……」  ウイは何もない宙に向かって右手の人差し指を突き出した。 「ユエの部屋、の隣がソウ。その隣がアリスちゃん」  順番に指を横にずらして行く。 「ユエの悲鳴は、オレら中央階段の反対側の部屋にも届いたろ? オレらより近い部屋のアリスちゃんに聞こえないわけがない」 「寝てたって可能性は?」 「確かにそれも考えられなくもないけど、でも実際アリスちゃんはもういないようだし、オレ的にはだと思ってるよ」 「ウイ、あんた、ほんとに良く気づくよな」  へらへら道化を演じながらも、実は一番周りに心を砕いているのは彼なのだと感じた。たぶん心の何処かでは気づいていたのかも知れない。 「おまえがユエ以外に興味ないからだよ」  ふんと軽く鼻を鳴らす。  やや不満げなその仕草にトワは肩を竦めた。 「ユエかな……」  少しの間二人が黙り込んだ後、ぽつりとウイは言った。 「たぶな……」  トワも同意する。 「……いなくなったエルザも……当然、ましろも……」  ウイは白いシーツの上の『赤』を、ユエのあちこちについた『赤』を思い浮かべた。  トワの言葉のあとを引き取る。 「……オレたちを元の世界へ戻そうするハクトさん……ソウのことが好きなアリスちゃん……。それから……いつの間にか来なくなった管理人さんと、家政婦さん……」 「ああ……」    

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