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第八章 7

 自分の罪を洗い流すように、冷たい水を頭から被る。  洗濯された清潔な衣服を身につけた。  ユエの寝顔を見ながら、どうしても眠れそうにない自分がそこにいた。  ソウは部屋を出て、トワの部屋を探すことにした。  トワへの贖罪の思いはあったが、見つけられなければそれでもいいと思っていた。ただ、何かをせずにはいられなかった。  幸か不幸かトワの部屋は思ったより早く見つかった。  そしてーーその部屋からまず出てきたのウイで、彼の足を伝っている鮮血は、ユエが傷つき流した血と重なった。  ユエを傷つけたのは自分だ。  それをまざまざと見せつけられた気がして、再び重苦しい気持ちになる。 「ユエには……優しくしてやったんだろ?」  ウイにそう聞かれた。最初は慰めてやったのかというに意味に捉えたが、そうではないことにすぐに気づいた。  ウイにもトワにも自分たちの関係は知られているのだろう。 「そ、だな」  もう言い訳する気もなく、ただセックスした後に来たという気不味さはあり、そう短く答えるのみだった。  そして、思う。 (優しく……か。そうしてやれればどんなにいいか……)   「ユエのことはおまえに任せるよ」  自分から聞いてきた筈のウイも何処か気不味げな顔をしている。話を切り上げようとしているのがわかった。  彼の思いを汲んで「ああ。トワをよろしく」  と言って立ち去ろうとしたのに、その(あと)を切ない声が追いかけてきた。 「……トワのこと、余り怒らないでやってくれな。あいつ、ユエのこと…………おまえがもっと早く来ていればこんなことには……いや」  途中で言い淀む。言うつもりはなかったことまで言ってしまった、そんな顔をしている。 「じゃ……」  言い掛けたまま、扉を閉めようとした。  その瞬間頭に浮かんだことがあった。 「あ」  そう声に出してしまった為にウイを引き止めることになった。 「ウイ、アリスを……」 (知らないか?)  その言葉を飲み込んだ。 「えっ? アリスちゃん?」 「……いや、なんでも」  反応を見れば何も知っていなさそうだと感じた。 『トワのこと、余り怒らないでやってくれな。あいつ、ユエのこと』  歩きながらウイの言ったことを思い返す。 (あんな切ない声で……ウイはトワのことを……そして、トワがユエのことを想っていることも知っている……)  小さく溜息を吐いた。 (ユエは誰にも渡せない……トワの気持ちが少しでもウイに向けば……なんて、俺も大概身勝手か)  その(あと)の言葉は少し気にかかる。  あれはいったいどういう意味だったのだろうと。 『おまえがもっと早く来ていれば』  あの部屋にもっと早く入っていればトワの行動も防げた。トワ、それからウイが辛い思いをせずに済んだ。  単純に考えれば、そのことを指しているように思われる。  しかし。

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