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第八章 8

(……もしかしたら……ウイは、後ろから静観していた俺に気づいて、暗にそれを言っているのかも知れない……それとも)  ソウはもう一つの可能性も考えた。  ユエに何かあった時の為に常に隣の部屋を選んでいた自分だ。本当なら誰よりも先にユエの元に行ける筈ーーそれが出遅れたのは部屋にいなかったからだ。  夜も更けていたのに。  自分が『何を』していたのかーーウイはそれを見たのだろうか。  もんもんと考えながら長い廊下を歩き、ユエが眠る己の部屋を通り過ぎる。  もう一つの気がかりを確かめる為に。  ソウの隣の部屋はアリスが使用していた。  の中、アリスは姿を現さなかった。ユエとトワの声は外にも漏れていたのに。  夜更けの出来事で、眠っていて気づかなかったというのなら、それでいい。 (でも……もし……)  従妹とは言え部屋を訪ねる時間ではないが、早急に心配事は解消しておきたかった。『何もなかった』としても、アリスはきっと許してくれる。  トントンと。遠慮がちにノックをする。  何の反応もなく、もう一度少し強くノックしてみる。 (寝てたら……気づかないよな……) 『寝ている』のだと信じたかった。  夜明けまであと数時間。 (朝また来るか……)  心配事を解消したい反面、事実を知るのが怖かった。  一旦背を向け、それでも去れずに立ち尽くした。  もう一度その美しい装飾のなされた重厚な扉と向き合う。 (鍵が掛かっていたら……このまま部屋に戻る……)  心の中で自分に言い聞かせ、ドアノブを握った。  ーー果たして、扉は開かれたーー    メインの照明が消された部屋の中で天涯付きベッドが、アンティークなスタンド・ライトで浮かび上がって見えた。  ベッドまでの間には、ソファなども置いてあるがそこには人影はない。 『素敵、お姫様になったみたい』  ふんだんにレースの使われたカーテンに目を輝かしていたアリス。  そのベッドに近づく。 「アリス……」  調度頭があると思われるところからカーテン越しに声を掛けてみる。  しかし、返事はなかった。 「開けるよ」  カーテンの重なり合っている部分から指を入れ、そっと開く。 (眠ってる……)    そう見えた。  目は眠っているように閉じられていたのだ。しかし、よく見るとその顔を随分と蒼白い。  まるで……。  ソウはアリスの身体に掛かっている上掛けを跳ね上げた。 「……アリ……っ」  ドレスのようなネグリジェの胸元に、両手を組んで置かれていた。まるで祈るように。    白のネグリジェ……いや、元は白かったのだ。  実家でも見たことがある。 『少女趣味だなぁ』   と笑うと、 『いいじゃない。寝る時くらい何着たって』  そう言って頬を膨らませた。  そんなことがソウの脳裏に浮かんだ。  白かった筈のネグリジェは、全て紅く染まっていた。

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