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第十章 4

 再びスマホのライトで暗い廊下を歩く。先程の礼拝堂から数歩で突き当たる。そこを曲がると、扉が一つあった。  どうやらこの扉の向こうは、地下室の最後の部屋らしい。  扉の把手を捻ると、今まで同様特に鍵も掛かっておらず、なんなく(ひら)くことが出来た。 (蝋燭が……)  室内は上階の部屋同様絨毯が敷き詰められていた。中程には円形のテーブルと椅子のセット、壁側にソファが何脚か置いてある。  その円形のテーブルに蝋燭が灯っており、誰かがここへ来たことを感じさせた。  小さめのサロンといった風情の部屋だが、地下なので当然窓もなく圧迫感があった。黴臭さと、それとは別の異臭のようなものが鼻についた。  そして、奇妙なことに中央に螺旋階段があった。これはいったい何処に繋がっているのか。  室内に踏み込んで蝋燭を持ち、それ程大きくはない部屋を回る。左側の壁が扉程度に刳り貫かれていた。  蝋燭を掲げて、中の様子を伺う。 (ここは……!)  物置のような小部屋だった。  手前の部屋のように綺麗な壁紙が施されてもおらず、下地そのままの壁。  中に入っている家具のように見えたものは、壁に立て掛けられた(かんおけ)のような入れ物。  天井や壁から下がっている鎖。壁に備え付けられている、鋸や鉈。小型のギロチンのようなもの。 (――拷問部屋)  そんな言葉がソウの頭に浮かんだ。  棺のようなもの、それは恐らくあの中には太い釘が無数にある筈。  ユエの本をちらっと目にした時に載っていたのを思い出す。  床のあちこちがどす黒く染まっている。  古いものあるが、比較的新しめのものもある。   そして、先程感じた異臭はここでかなり強くなった。  ソウは目を閉じ、その目蓋の裏にある光景を見た。  いつの間にか来なくなった管理人、家政婦。  その行方を彼は知っていたのだ。  無惨な姿になって黒薔薇の(その)に置かれていたことを。  驚愕はした。  しかし、彼は躊躇なくそれを薔薇の下に埋めた。  警察などに届けることはしない。  誰がしたのか、これをどうすればいいのか。  それは初めから決められているかのように、ソウには理解出来ていた。  それからはが彼の仕事となった。まるで業務をこなすかのように黙々と。  他の住人たちが知るよりも多く、あの薔薇の下には眠っている。  を行った『本人』さえも知らない。  ソウは隣の部屋に戻った。  ふと何か物音がしたように思えた。  じっと聞き耳を立てていると、それはこの部屋の上階からのようだ。  螺旋階段の上から聞こえ、それと共に何処かきな臭い匂いがしていた。         

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