66 / 77
第十章 4
再びスマホのライトで暗い廊下を歩く。先程の礼拝堂から数歩で突き当たる。そこを曲がると、扉が一つあった。
どうやらこの扉の向こうは、地下室の最後の部屋らしい。
扉の把手を捻ると、今まで同様特に鍵も掛かっておらず、なんなく開 くことが出来た。
(蝋燭が……)
室内は上階の部屋同様絨毯が敷き詰められていた。中程には円形のテーブルと椅子のセット、壁側にソファが何脚か置いてある。
その円形のテーブルに蝋燭が灯っており、誰かがここへ来たことを感じさせた。
小さめのサロンといった風情の部屋だが、地下なので当然窓もなく圧迫感があった。黴臭さと、それとは別の異臭のようなものが鼻についた。
そして、奇妙なことに中央に螺旋階段があった。これはいったい何処に繋がっているのか。
室内に踏み込んで蝋燭を持ち、それ程大きくはない部屋を回る。左側の壁が扉程度に刳り貫かれていた。
蝋燭を掲げて、中の様子を伺う。
(ここは……!)
物置のような小部屋だった。
手前の部屋のように綺麗な壁紙が施されてもおらず、下地そのままの壁。
中に入っている家具のように見えたものは、壁に立て掛けられた棺 のような入れ物。
天井や壁から下がっている鎖。壁に備え付けられている、鋸や鉈。小型のギロチンのようなもの。
(――拷問部屋)
そんな言葉がソウの頭に浮かんだ。
棺のようなもの、それは恐らくあの中には太い釘が無数にある筈。
ユエの本をちらっと目にした時に載っていたのを思い出す。
床のあちこちがどす黒く染まっている。
古いものあるが、比較的新しめのものもある。
そして、先程感じた異臭はここでかなり強くなった。
ソウは目を閉じ、その目蓋の裏にある光景を見た。
いつの間にか来なくなった管理人、家政婦。
その行方を彼は知っていたのだ。
無惨な姿になって黒薔薇の園 に置かれていたことを。
驚愕はした。
しかし、彼は躊躇なくそれを薔薇の下に埋めた。
警察などに届けることはしない。
誰がしたのか、これをどうすればいいのか。
それは初めから決められているかのように、ソウには理解出来ていた。
それからはそれが彼の仕事となった。まるで業務をこなすかのように黙々と。
他の住人たちが知るよりも多く、あの薔薇の下には眠っている。
それを行った『本人』さえも知らない。
ソウは隣の部屋に戻った。
ふと何か物音がしたように思えた。
じっと聞き耳を立てていると、それはこの部屋の上階からのようだ。
螺旋階段の上から聞こえ、それと共に何処かきな臭い匂いがしていた。
ともだちにシェアしよう!