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第十一章 1

「ーーその女は、生まれつき醜い顔だった。でも財力も権力もある家系に生まれ、政略結婚をし、この屋敷では力を持っていた。誰も彼女に逆らえないーーその醜い容貌のせいで彼女は狂っていた。自分を、遠い血筋として話に聞くだけのエリザベート・バートリの生まれ変わりと思い込んだ。血を浴びれば美しくなれると……彼女の狂気に怯えた夫も含めた家人たちは結託して、彼女をあの地下室へと閉じ込めた。生け贄を捧げながら……やがて彼女は世の中全てを呪いながら死んでいった……そんな女の怨念が、この洋館には巣くっているのです」  長い長い物語が終わりを迎えようとしていた。 「ああ、だいぶ長いことお話してしまいましたね」  (やかた)の女主人はほっと息を一つ()いた。喉が乾いたのか、一口紅茶に口をつける。 「あのぉ……」  美雪(みゆ)は恐る恐る手を挙げた。 「はい。なんでしょう」 「今のって作り話……ですよね?」  女主人は答えず微笑んでいる。 「だって、今のお話だとこの洋館は燃えたことになりますよね? でもそんな様子なんて全然……」  美雪は門の外から見たこの洋館の姿を思い浮かべた。 「うふふ。さぁどうでしょう」  濃緑の瞳が妖しく笑う。 「(そう)、お嬢様方をお部屋にご案内してあげて」 「はい。奥様」  アッシュグレイの執事然とした男は恭しく頭を下げた。  美雪と美華(みか)は同時に顔を見合わせる。  そう言えば先程はそれに対して何も答えていなかったことを思い出した。 「いえ! あたしら帰りますよ。道さえ教えてくれれば」  今の話が作り話だとして、それでも何か気味の悪いものを二人とも感じていた。このままここに泊まりたくはなかった。 「外は……酷い嵐ですよ」  女主人は視線を窓のほうに送った。二人もそれを追って窓のほうを見た。  強い風に窓がガタガタと音を立て、雨がガラスを打ち付けている。 「それに……もう夜も遅いですし、この辺りは街灯もなく本当に真っ暗なんです。明日夜が明けてからお帰りになったほうが良いと思いますよーーーー」  美雪と美華はアッシュグレイの髪の男と長い廊下を歩いていた。  なんとなく言いくるめられた感もあるが、確かにこの風雨の中を歩いて行くのは無謀かも知れない。 『朝になったらソッコー帰る!』それが口にしなくてもわかる二人の考えだった。 「あのぉ、ソウさん?」 「はい。なんでしょう」  先程の女主人ー―実際に女か男かもわからない。もしかしたらBLACK ALICEのユエかも知れない人物ーーと全く同じ対応を示した。

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