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第十一章 2

「さっきの話、本当なんですか?」   (誰か作り話だって言って!)  一縷の望みを掛けて蒼に聞く。 「さあ、どうでしょうか……」  ふふっとこちらも妖しく笑う。 (ええーっ。どっちなのー? はっきり言ってっ)  半泣きになりそうになっていると。 「まあ、奥様も冗談がお好きなかたですから」  にこっと今度は陰のない笑顔を見せた。 「それってっっ、やっぱり冗談! 作り話ってことですよねっっ。じゃあ、あなたがたBLACK ALICEのユエさんとソウさんってのはっっ」  食い気味に詰めよって彼の背中にごつんとぶつかった。 「あ、失礼。ーーこちらのお部屋をどうぞ。ベッドがお二つあるお部屋なので、ごゆっくり。浴室もございますので」  扉を開けて丁寧に説明をしてくれたが、先程の答えは得られないままだった。 「わ、すごーい。ひろーい。きれー」  豪華な部屋を一目見て、有耶無耶になった案件など忘れたようにはしゃぐ美雪。  それを見て呆れたように美華は溜息を吐いた。  ベッドは二つとも天蓋付き。  美雪はシフォンレースのカーテンを開けて飛び込んだ。 「ふわっふわっ。こんな天蓋付きのベッドなんて初めて~お姫様になったみたい」  美雪が勝手に窓側のベッドを取ったので、美華はもう一つのほうのベッドに腰を掛けた。 「ねぇー美華ー。あの話どう思う? 美華、なんか?」  美雪はカーテンを閉じたその向こうから話し掛けてくる。彼女の姿は陰のように映っていた。  彼女の陰を見詰めながら美華は少し考えた。  美華には美雪にはない、霊感のようなものがあった。そこは双子でも似なかったらしい。  とは言え『ちょっと見える』『ちょっと感じる』程度のものなのだが。 (あの女? 男? の後ろに陰みたいなものが見えたんだよな……美雪に言うべきか……)  しばらく考えて、 「なぁ、美雪。あのさ……」  そう声を掛けてみたが反応がない。 「美雪? おい、美雪?」  名前を呼びながらベッドを降り、隣のカーテンを開けた。 「え? もう寝た?」  美雪は平和そのものの顔をして眠っていた。  一応鼻の辺りに手を差し出してみるーー規則正しく呼吸をしている。 「は? 嘘だろ。さっきまであんなに怖がっていたところで、こんなにすぐ寝れちゃう?」  乱暴にカーテンを閉める。  今の声は自分でもだいぶ大きかったと思っている。  それでも美雪は目を覚まさなかった。 (まさか……あの紅茶の中に何か入ってたなんてこと……)  美雪は怖いのを誤魔化す為か、話を聞きながら頻りに紅茶に口をつけていたように思える。対して自分は一、二度唇を湿らせたくらいだった。 (でも、あたしたちがここに来たのは単なる偶然だ……『何か』を常に用意してるなんてこと……)  一瞬、背筋を逆撫でされたような悪寒が上った。  いやいや、まさかと首を横に振る。 「んー」  しばし思考を巡らし、 「ちょっと……様子伺ってみるか……」  と呟いた。  灯りが点々と見える長い廊下に出て、後ろ手に扉を閉める。 (ホラー映画じゃ序盤に一人で行動するヤツって、大概…………)          

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