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第十一章 3

   ぱちりと気持ち良く目覚めると、そこは見知らぬベッドの上だった。  豪華な天蓋のついたベッド。シフォンのカーテンが周りを遮っている。 「あ、そうか。昨日……」  美雪は昨日道に迷って辿り着いた洋館で、恐ろしくも哀しい物語を聞いたことを思い出した。  洋館の住人は、美雪の推しグループBLACK ALICEのメンバーに良く似た二人。本人たちかそうでないのか、結局はっきりしないまま。  そして語られた物語が、真実なのか作り話なのか……。  美雪は一人仕切られたカーテンの中にいるのが怖くなり、思い切り(ひら)いた。  レースのカーテンで閉じられた窓が見え、外はまだ薄暗いようだった。 「……美華、まだ寝てるよね……」  再びここで一人で寝られる気がしなくなり、美雪は隣のベッドに潜り込むことに決めた。  やはり同じように仕切られたシフォンカーテン越しに小さく声を掛ける。 「美華……美華……」  返事はなかった。 (寝てるのかな……お邪魔しまーす)  そっと、カーテンの割れ目を指で押し退け、隙間を作る。 「え……っ」  ーーそこには誰もいなかった。 「美華、美華」  名を呼びながら室内を探す。そうは言っても、探す場所は浴室とトイレのみ。そのどちらにもいなかった。  もう一度ベッドを覗く。  どう見ても使われた形跡がなかった。 「美華……いったい何処に行ったの……」  部屋の外に出るのは怖い。しかし、このままにしておくのも怖い。  彼女は思い切って扉を開けた。 (探すって……いったい何処を……)  一つ一つ部屋を確認するわけにもいかず、ただ壁に灯りが点々と揺らいでるだけの長くて薄暗い廊下を歩いた。 「美華……美華……」  時折小さな声で呼び掛けながら。  中央階段の吹き抜けにはシャンデリアが輝いていて、少しほっとする。  その側にあるのは、女主人と会った部屋だ。  ここなら開けても平気そうに思えた。  扉を開けるとやはり中は夜明け前の薄暗さがあり、しんと静まり返っている。 (雨……止んだのかな……早く、美華を見つけて、ここを出たい)  美雪は中央の階段を下りて、玄関ホールで立ち止まった。  左右の廊下を見渡す。 「あれ……」   右側を向いた時に、遠くで何かがふわりと動いたように見えた。 「美華?」  彼女は、外から館に向き合った時の左翼側の廊下を奥へと歩き始めた。  時々何かがひらひらしているような気がした。  でももしかしたら気のせいかも知れない。何処まで行っても誰もいない。  ーー彼女がに気づいたのは一階の廊下を歩き始めて幾つかの扉を通り過ぎた時だった。  背後に人の気配がするような気がしたのだ。  絨毯の敷かれた廊下が足音を消してしまっている。 (誰か、いる? 美華? でも美華なら声を掛けてくる筈)  女主人かアッシュグレイの男の可能性もある。そうだとしても安心なわけじゃない。初めて会った得体の知れない人物なのだから。  振り替えるのも怖くて、足は自然と早くなる。  ーーこの先は行き止まりのようだった。とうとう館の端まで来てしまったらしい。  そこで美雪は、思い出したくないことを思い出してしまった。 (……そう言えば、の中に出てきた地下室って……)  行き止まりの壁の手前の扉はーー(ひら)いていた。  そこには廊下よりも更に暗い空間が彼女を待ち受けていたのだった。      

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