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第4話
「もっと……」
甘い、美味しい。
思わず強請《ねだ》る様な事を口にしてしまう。
浅ましい生き物だと思われただろうか。
実際に浅ましい生き物なのだから仕方が無いのか。
けれど、宗吾さんは呆れた雰囲気はない。
それどころか、彼の手が俺の顎を固定してもう一度噛みつく様なキスをされる。
舌の根元から先まですべて舐めあげられて、くぐもった声がもれる。
唾液が口の端からダラダラとこぼれてしまう。
勿体ない気がするのに、体は気持ちいいという感覚しか受け付けてくれない。
美味しい、美味しい、もっと欲しい。
目の前の男について知っていることは名前位な物なのに、思考がそれに塗りつぶされていく。
相手が誰なのかもよくわからないのに、欲しいと美味しいで頭がいっぱいになってしまう。
眼鏡が宗吾さんの顔に当たる。
それを宗吾さんが外すと、今度は上あごを舐められる。
宗吾さんが唇を離すと「あっ……」というもの欲しそうな声が出る。
宗吾さんは困った様な、それでいて嬉しそうな表情を顔にのせる。
こういう時どうしたらいいのか分からず、ソワソワしていると、宗吾さんが僕の頬を撫でる。
それから僕のシャツのボタンを慣れた手つきで外していく。
「淫魔というのは、満腹になった後のセックスは人間と同じものだというのは、本当か?」
唐突に聞かれるが正直分からない。
「満腹になったこと無いので……」
一般的にはそう言われるが、実際は知らない。
経験したことない事が自分にとって本当なのかなんて答えようが無い。
記憶がある限り満腹になって満たされているなんてことは一度もない。
宗吾さんは嬉しそうな顔をすると、その後鎖骨に唇を寄せた。
――ぢゅう
鎖骨に鈍い痛みを感じる。
それすらも快楽に変換して、「んっ……」という甘い声を上げてしまう。
キスマークというやつなのだろう。
主が他に持っていた、淫魔が付けられているのを見たことがある。
僕につける意味があるのかは分からない。
だけど、そんなことをされた事が無かったので、不思議な気分だ。
そのまま、宗吾さんは二度、三度僕の首筋を舐め、それから何度か強く吸い上げた。
「お風呂、先に……」
淫魔の類の生き物に人の様な性病の類は無い。
だけど、普通は気分的に嫌なものだろう。
あんな風に別の人間を咥えようとしてた時点で今更なのだろうか。
僕の体は刺激を悦んでしまっている。
別に普段からセックスをして暮らしている訳ではない。
主は、ほとんど僕を相手にしなかった。
今日だって、寸前にこの人に止められたのだから、気にしなければいい。
ほんの少しだけ腹が満たされてしまったからなのだろうか。
思考が別の事を考えてしまう。
まるで人間みたいなことを気にしている、と自分でも思う。
身ぎれいなんてものからほど遠い生き物なのに。
事実、宗吾さんは驚いた顔をしていた。
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