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第37話

最初は、海外の取引先から貰ったという綺麗なガラス細工だった。 手をだして、と言われて宗吾さんに向かって掌を差し出すと、ぽんと乗せられたのが紺色の小さな小箱だった。 開けるとガラス細工の小さなウサギが入っていた。 つるりとしたウサギはかわいらしく、思わず微笑むと、次の日は花、その数日後は小さなチョコレートのビスケットと、数日おきに何かお土産を持って帰ってくるようになった。 最初は偶然だと思った。 だって、僕に態々何かを準備して帰ってくる意味が無い。 けれど、それが度々になってきて、彼が僕のために態々何かを持って帰ってきていることに気が付いた。 ペットにお土産を買ってきている気分なのかもしれない。 だけど、彼は僕のことをペットではないと言っていた。 花瓶が見当たらなくてコップに飾った一輪の花を眺めながら考える。 彼は僕をどうしたいのか。 僕は彼とどう向き合いたいのか。 相変わらずよく分からない。 その日、宗吾さんがお土産にくれたのは、一冊の写真集だった。 時々詩の様なものが書かれているそれは、風景の写真が載っている本だった。 「ありがとうございます」 リビングのはじに僕専用の棚を準備してもらっていた。 そこにそっと本を置く。 少しずつ僕の物が増えていく。 ボロボロになった眼鏡以外何も持っていなかった僕の物が並んでいる棚を見ていると不思議だ。 着ている洋服も僕のためのもので、お風呂上りに宗吾さんに渡されるホットココアが入っているマグカップも僕の為のものだ。 お腹の中がふわふわして、不思議な気持ちになる。 これは何だろう。 ぽかぽかとするような、それでいて、少し泣きたくなるような。 僕はこんな気持ちに今までなったことは無いのだ。 ホットココアを噛みしめる様に飲んでいると「おいで、髪の毛ふいてあげるから」と言われた。 ハイ、と返事をして宗吾さんの座っているソファーの横に座る。 宗吾さんはタオルで僕の頭をわしわしと拭いてくれる。 僕はこの瞬間が好きだ。 だけど、やっぱりこれはペットと同じ扱いなのかもしれないと思いながら、頭を触られる心地よさに瞼を閉じた。

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