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第38話

家に来ているハウスキーパーの人が変わった。 最初の一か月くらいは、数人の人が交代で来ていた気がするのだけど、それ以降、三日に一度のペースで同じ人が来るようになっていた。 その人が俺と同じサキュバスの一種であることはすぐに分かった。 美しい見た目と絹の様な肌。 僕にニッコリと笑いかけられる笑顔も美しい。 僕なんかとは違う、とても上等な淫魔だと思った。 けれど、宗吾さんは彼をちらりと見て「書斎の掃除はいい」と言っただけだった。 元主のところにも僕より綺麗な人がたくさんいた。 男も女も何人もいたのに、彼が手をのばしたのは僕だけだ。 なんのために彼は僕を選んだのだろう。 「あ、あの、僕もお手伝い」 した方がいいですか? という言葉は飲み込んでしまった。 宗吾さんは「大丈夫だから」と言って笑顔を浮かべた。 特段掃除が上手いという訳でも無い。当然だと思った。 ◆ それからハウスキーパーの人は宗吾さんのいない時間にも時々来る。 気の利いた世間話もできないので大体はソファーの上でなるべく小さくなって過ごすようにしている。 宗吾さんに貰った本は、あれから何冊も増えている。 僕が本をときどき眺めていると知った宗吾さんが、その後何度も何度もお土産に買ってきてくれたものだ。 今日は雪の結晶の写真集をぼんやりと眺めていた。 ハウスキーパーの人が僕の方をちらりと見る。 視線があって、体が固まる。 こういう時どうしたらいいのか分からない。 友達もいない。家族も今はいない。 誰かと話すことも無い。 「大丈夫ですよ」 ハウスキーパーさんは笑顔を浮かべる。 彼が何を大丈夫と言っているのかよく分からない。 彼は笑みを深めたあと「俺は絶対にあなたに危害をくわえないし、エッチなこともしないからって理由で選ばれたんですよぉ」と言った。 パートナーさん独占欲強めですよね。と言われて最初ハウスキーパーさんが何を僕に伝えようとしているのかよく分からなかった。 それが宗吾さんの事で、この人は僕の事を宗吾さんのパートナーだと思っていることに数秒経ってようやく気が付く。 僕は宗吾さんのパートナーではない。 じゃあ、僕は何なのか。それは自分でもよく分からなかった。

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