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第39話
「あの、僕、別に宗吾さんとパートナーではないです」
僕が言うと、その人は不思議そうに僕を見る。
「え?」
不思議そうに言った後、ハウスキーパーさんは口をもごもごさせる。
「……大変失礼しました」
視線をしばらく彷徨わせた後、その人は言った。
商品価値が無さそうに見える僕が、買われたのだと信じにくいのかもしれないと思う。
だけど、それについてどうこう誰かに話す立場ではない。
「あの、多分何か勘違いしていると思うんですが、俺の口から色々説明してしまっていいのか分からないので次の出勤の時までまってもらっていいですか?」
彼は綺麗な笑顔で笑った。
彼みたいな人であればきっと皆欲しがるし、大切にされるのかもしれない。
少なくとも僕よりも、そういう価値のある人に見えた。
僕は多分今、とても大切にされている。
たいせつな物として扱われている。
だけど、自分にそれほどの価値があるのかは疑問しかないし、何故宗吾さんが僕を大切なものとして扱ってくれているのかもよく分からない。
この人も、俺を傷つけないように配慮してくれているのが分かる。
そこはちゃんと分かるのに、それ以外の事が何も分からない。
僕はあまりにも何も知らないのかもしれない。
宗吾さんの事も、世の中の事も、何もかも。
宗吾さんに聞てもいいんだろうか。
この人にも聞いてみたいことは沢山ある。
「自分の事を犬みたいだと思ったことはありますか?」
ハウスキーパーさんに聞く様な話でない事は僕でも分かる。
けれど、こぼれてしまった言葉を訂正することができない。
「昔、思ったことはあるよ」
怪訝そうな顔も、嫌悪感も何もなく、穏やかな顔でその人は言った。
「でも、今は思わないよ」
こちらをみて緩く笑う笑顔は、やっぱりとても整っていて美しい。
いつか僕も、なんて考えてしまう位、穏やかで幸せそうな顔だった。
「……まあ、俺はネコチャンなんだけどね」
ふふっ、とその人は笑った。
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