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第47話

「あなたの、支配欲求ってやつは物に対する話でしたか?」 執着してしまっている話と支配欲求の話は同じとは思えなかった。 独占したいと希《こいねが》う気持ちは支配したい気持ちと一緒なのだろうか。 宗吾さんの瞳が揺れた様に見えた。 「食事以外のセックスは怖いんだろ?」 宗吾さんが言う。 そうなのかもしれない。でも、そうでないのかもしれない。 「僕はあなたにとってペットみたいなものですか?」 前も同じことを聞いた。 「ペットがいなくなって、どうしようもない気持ちになる人も多分いますよ」 宗吾さんの持っている執着は多分人間が初めて飼う犬に執着する気持ちが大きくなったものなのかもしれない。 彼が僕に求めているのはそういうものなのだろう。 「別にペットとはセックスしないじゃん」 とても軽やかな口調で宗吾さんは僕に向かって言う。 「口調……」 先ほどからずっと、気になっていた。 「ああ、こっちが素だよ。 君に、しっかりして無いって思われたくなくてね」 あー、何もかも上手く行ってないな。そう自嘲気味に宗吾さんが呟く。 「俺は動物に欲情する人間じゃない。 淫魔は動物じゃないし、友人はいるけど君以外セックスをしたいとは思わないよ」 それに俺のセックスは人間相手でも割と酷いんだと思う。 宗吾さんは今日はやけに饒舌だ。 「僕がここに来る前にしてきたことも大概酷いですよ」 「大変な目にあったんだね……」 「そういう意味じゃないですよ。あなただってそういう意味で酷いって言ったわけじゃないですよね? そりゃあ嫌だと思う事も何度もあったけど、僕はそれを快楽だと判断してしまいますから」 僕も少しだけ饒舌なのかもしれない。 なんでだろう。 誰かに自分がいないと生きていけないなんて言われたことが無いからかもしれない。 僕は誰かがいないと生きていけない。 その“誰か”がこの目の前の人の事かは分からないけれど、この人は僕がいないと生きていけないらしい。 もしかしたらこの人は僕と似た生き物なのかもしれないと思った。 「……酷い事してくれませんか?」 自分でもびっくりする位するりと言葉が出てきた。 宗吾さんは、はっという大きな息を吐くと、それから二、三度大きく唇を開いたり閉じたりを繰り返していた。

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