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第48話
「また、後悔しない?」
宗吾さんは僕に聞いた。
当たり前だ。途中で駄々をこねて泣いてやめてもらったのに、また同じことをしようとしている。
「あなたの事が知りたいと思ったから……」
僕がそう言うと、宗吾さんは大きく、はあああとため息をついた。
「俺が君に望むのは、俺の手元からいなくならない事とそれから、他の人間のものにならない事の二つだけだから、那月がそれをする必要はないんだよ」
宗吾さんは僕の目をしっかりと見て言った。
何故それが二つになるのかはよく分からなかった。二つは同じことのように僕には思えた。
僕が、不思議そうな顔をしていたのだろう。宗吾さんは僕の頭を撫でて、それから言葉を言い直した。
「これからの一生他の人間の体液は飲まないで欲しい。」
宗吾さんは僕を見てそう言った。
僕が誰から精液を貰うのかを選べる様な立場じゃない事は彼も知っている筈だ。
だから、あまりにも現実的じゃない話をされても、正直困る。
けれど、彼が一番気にしていることがそこなのだという事だけは分かって、頷く。
実際他のあてもないのだ。
何も持っていない僕が何かを選び取れるとは思えない。
そんな僕に誰かが愛なんていうよく分からないものをくれるとも思わない。
僕が何をすべきなのかも知らない。
この人の手を今取ってしまう事の意味も本当のところ何も分かっていないのかもしれない。
それでも、この人の事が知りたいと思った。
ただ、僕に執着していると言っていたこの人がどうしたいのかを知りたいのだ。
「あなたのものでいる限り、僕が何をしてもあなたは絶対に僕を捨てないって約束されてるって事だから、僕もそれでいいです」
「捨てる訳がない。自殺志願者って訳じゃないんだ」
宗吾さんはすぐに言葉を返した。
僕が一番怖いのは僕が一人になってしまう事だ。
それだけは無いと宗吾さんは約束してくれている。
僕は、宗吾さんの頬にそっと手をのばすと、彼の唇をそっと舐めた。
他の誘い方を僕はよく知らなかった。
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