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第59話

気が付いてしまったからと言って、僕と宗吾さんの関係が何か変わる訳ではなかった。 自分が愛玩動物なのか否かを考えるのはやめた。 少なくとも、宗吾さんは僕のために死ねると言ってくれたからそれで充分だと思った。 僕は充分すぎるものをもう貰ってしまっているので、この関係が変わることはもう無いのだと思う。 大切な宝物として扱われて、優しい指にそっと撫でられて、食事と快楽を貪る。 多分それがとても幸せなものなのだと僕はよく知っている。 前の生活とは大違いだった。 だから、これ以上求めてはいけない事もちゃんと分かっている。 だからこそ、自分のこの感情が嫌になってしまう。 宗吾さんがもしかしたら僕と同じ気持ちを返してくれるかもしれないと期待してしまうこの気持ちが嫌になる。 そんなこと今までまるで考えたことが無いのにそんなことを考えてしまうのが嫌だった。 ◆ 僕の何かが変わったことにハウスキーパーさんは気が付いたのかもしれない。 「ねえ、今度一緒に出掛けてみない?」 ハウスキーパーさんが僕に言った。 「そんなに、あのバカの事ばっかり考えてたら溶けちゃうよ。 たまには気分転換したほうがいいよ」 淫魔同士で集まって、ちょっと運動したりする気軽な会があるんだと伝えてくれた。 宗吾さんもこの前、淫魔の社会復帰のための会があると言っていた気がする。 「そうですね……」 僕は頷いた。 宗吾さんがいいと言ったら、この人以外の淫魔にも会ってみたいと思った。 他の人がどう色々なことと折り合いをつけて人間の方が多い世界で生きているのか、少しだけ気になった。

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