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第60話
愛というものはどうやってそこにあるのか、推し量れるものなのだろうか。
僕は多分僕に執着してくれているこの人の事を愛している。
けれど、この人は僕の事を愛してはいない。
それは僕が空腹を覚えるから確かなのだろう。
ハウスキーパーさんが言っていたことが本当なのか、宗吾さんと二人で調べた。
深い愛情を与えられた淫魔はお腹が空かないらしい。
淫魔が子供の時に性交をしなくても親からの愛があれば生きていける様にという体の仕組みらしい。
それで少しだけ僕の家族の事を思い出した。
もうおぼろげにしか覚えていないけれど、僕には母がいたことを思い出した。
今僕が生きてるって事は、もしかしたら僕は母に愛されていたのかもしれない。
だけど、どこかで多分愛されなくなったから今がある。
無くなってしまってこれからも得られるはずの無いものについて考えるのは、早々にやめてしまった。
だから、その件について僕が深く考えたことは無かった。
宗吾さんは僕とセックスをしてくれるし、宗吾さんとのセックスが多分僕は好きなのかもしれない。
好きな人とのセックスは、好きなものなのか。
僕にはよく分からないけど、これからセックスをしようとなる直前に体が硬くなってしまう感じはなくなったと思う。
セックスが嫌いな淫魔なんて、お笑いのネタにもならない。
穏やかで、穏やかで、でも、僕の心の中で恋心だけが燻《くすぶ》っている。
僕の浅ましい願いが僕の内側でぼんやりと火を灯し続けてしまっている。
それがいいことなのかは自分でも分からなかった。
宗吾さんに伝えたことは無い。彼をこれ以上困らせたくはなかった。
偶然あの場所に僕がいたというだけで、宗吾さんの残りの人生が決まってしまったというのなら、それ以上に迷惑をかけたくはなかった。
だから、今まで通り、この気持ちは無かったことにするのが多分正解なのだろう。
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