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第63話
その日の夜、宗吾さんが食事をとってから、二人で庭に出た。
プラネタリウム程、星は眩しくない。
そもそも空があまり暗くないのだと思う。
だけど、比べる先があのプラネタリウムしかない事に僕はちゃんと気が付いている。
こんな風に夜空を見上げたことは無い。
一人でも誰かとも。
空の星を眺めようなんて思ったことが一度もない。
だから、今日二人で出かけて、プラネタリウムを見たから変わったことなんて何もない。
比較できるものが無いのだから。
ぼんやりと眺める星空は、いくつかの星しか確認できない。
でも、それでもよかった。
じんわりと滲む様に輝く星を宗吾さんの横で眺めながらプラネタリウムで見たおとめ座のスピカを探す。
淡く乳白色に輝く星を見つけて、思わず宗吾さんの腕を引っ張る。
そのまま、宗吾さんの手を星の方に指さす様に向けた。
「ほら、あれ……!!」
宗吾さんが吐息で笑う声を聞いて、子供っぽいことをしてしまったと思った。
けれど、宗吾さんは僕の方をみて、甘ったるい笑みを浮かべた。
笑顔に味があるかは分からないけれど、多分チョコレートみたいな味の笑顔だった。
ジワリ。
胸のあたりで何かが広がった気がした。
甘い、甘い。とても甘ったるい感覚。
「うん。そうだね、スピカだ」
おとめ座の物語は果物を食べなくても生きていける僕にはよく分からなかった。
けれど、プラネタリウムでの記憶よりも、今体の内側に確かに灯る熱に驚いている。
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