64 / 82
第64話
宗吾さんがまた口角をあげて笑顔を浮かべる。
それは、少しいびつな笑顔だ。
「愛してる」
その言葉は唐突に響いた。
正直驚いてしまった。
彼は僕に執着をしていることは知っているけれど、それはそんな感情に基づいたものじゃないと僕はちゃんと知っていた。
それにちゃんと、そう説明された。
きちんとそれとは違うのだと説明して、理解した。
それでちゃんと、ちゃんと諦めをつけた。
それに僕は彼に愛される様な存在じゃないと僕は良く分かっている。
何も持っていない僕が彼に愛されるはずが無い。
それは多分、空っぽな箱を愛することと変わりがない気がする。
空っぽの箱に対して執着をする人が宗吾さんの親戚にいるのかはわからないけれど、やっぱり愛されるには足りないと思う。
だけど、愛してるという言葉を聞いて、心臓がドクドクと派手な音を立てている。
どこかで少しだけ期待してしまっている。
彼が僕の事を見つけてくれたみたいに、彼が僕を愛してくれるかもしれないという事を。
そういう事を願ってしまっている。
期待してしまっている。
ドキドキとなる心臓の音が耳に響く。
それが鳴りやまない。
ともだちにシェアしよう!