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第65話

「多分、最初から那月のこと好きだったんだろうね」 宗吾さんが目を細める。 自分の執着する質《たち》に気を取られててその可能性を考えたことも無かった。 「だって、僕は……。」 言葉が上手く紡げない。 だって、僕達はセックス位しかしてきていない。 上手く言葉だって交わしてこれていないのに、何故。 その中に彼が僕を好きになるような理由が思いあたらないかった。 「ここ、ちゃんと気持ちいいってなってる?」 宗吾さんが僕に手をのばしてそれから背中の腰骨のあたりを撫でた。 体がビクリと震える。 「愛を注げているかって目にみえないからなあ」 でも、満たされてない? そう、宗吾さんは僕に聞いた。 それでようやく、この体の中の熱が何なのかに思い至った。 愛し合った淫魔は空腹にならない。そんなあり得ないと思った言葉が頭に浮かぶ。 「ずっと気が付いて無くて、ごめんね」 宗吾さんに謝られる理由が思い至らない。 「自分の執着対象を見つけたことで頭の中がいっぱいで、他の可能性を考えていなかったんだよ」 でもね。そこで宗吾さんは言葉を区切って僕の事を見た。 体の中で甘いものがぐるぐると渦巻いている気がする。 多分、宗吾さんは僕が何を言いたいのか分かっている様な顔だ。 その位僕は何もかもが拙い。 「那月が俺の手を取ってくれたから」 それがさっき星を見せようとしたときに思わず宗吾さんの手を取ってしまったことだと気が付いた。 「愛っていうのはさ、そうやって自分の見つけたいいことを分け合える事だと思うんだよね」 僕は、僕がいなくなったら死んでしまうと言ってくれたこの人に恋をした。 だけど、僕の好きな人は愛は分かち合うものだと言う。 僕が、二人の想い出を分かち合おうとしているところが愛おしいと言ってくれている。 ぽろり。唐突に涙が溢れた。 体の中に渦巻く熱があふれ出す様にぽろぽろと涙がこぼれる。 悲しくも寂しくも、惨めでもないのに涙が止まらない。 僕は人間ではない。 貧相な姿をした、淫魔で教養もないし、何も持っていない。 それでも僕はこの人と何かを分かち合えるのだと、宗吾さんは教えてくれた。 そんな僕を愛してると言ってくれた。 「――僕も愛してます」 涙声でそう言うと、宗吾さんはとろけるような甘ったるい笑みを浮かべた。

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