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第3話

清花の場合 「本当に華奢だなー。」 先生は抱きしめながら言った。 私は幸福感に満たされながら腕を回す。 華奢と言えば、さっきの男の子は細かった。学生服を着ていなければ女の子だと思っていただろう。 肌白かったなー。 化粧水とか使ってんのかな。 「さっき玄関で、すっごい綺麗な男の子とすれちがったんだけど!!生徒なの?」 と部屋に入り興奮気味に聞くと 「あー。あれ俺の甥っ子。あおと。」 たしかに、言われてみれば顔が少し似ている。 先生の方が肩幅もあって、髭もあるからぜんぜん違うが切れ長の目や鼻は似ている。 同じ男なのに、大人と子供でこんなに違うんだな。キッチンでタバコを吸う先生を見て思った。 タバコを挟む指は骨ばっていて毛も濃い。 ごついわけではないが、筋肉がついていて肩幅もしっかりしている。 先生に出会ったのは、高校1年。 きっかけは、お父さんだった。 たまたま、地方紙に生徒募集と書いてあったギター教室の記事を見つけて、「お前、部活もやらないんだったらギターどうだ!ギター!」と自分では弾けないギターと記事を見せてきた。 お父さんはロック好きで、昔ギターを買ったのだが練習に挫折したらしい。だが、いつか子供が弾くかもと大事に取っておいたのだ。 私はその頃、アメリカのガールズバンドにハマっていた。化粧もマネして、よく学校で目をつけられていた。 「ギター弾けたらますますあんなお姉ちゃんになれるぞ!」と私の部屋のポスターを指差した。 私も「え〜?そうかな〜?」とのせられ、ギターを持って記事の住所に向かった。 住所に部屋の番号が書いてあったが、もっと大きいかと思っていたから怪しんだ。 えええ。ギター教室ってヤ●ハ音楽教室みたいなのじゃないの?お父さん連れてくるんだった、、、。 合わなかったら、やめよう、、、。と思いながらインターホンを押した。 「はーい。」 低い声にドギマギした。 玄関が開き、髪の毛はボサボサで、無精髭を生やした男が出てきた。それが先生だった。 「あ!体験の子かぁ。どうぞどうぞー」 玄関の横はキッチンで、その奥に襖があり、そこでギターを教えているらしかった。 部屋に入ると、低いテーブルにはCDや楽譜が散乱していた。床にもピックが落ちていた。 「散らかってて、ごめんねー。あれ?名前なんだっけ?」 「小早 清花、、、です、、、」 「きよかちゃん。」 笑いながら低く静かな声で呼んだ。 生まれて初めて、異性を意識した。男の人だって思った。 お父さんとも、クラスの男子とも、学校の先生ともぜんぜん違かった。 そこから、私は週1回教室に通い始めた。 少しでも先生と一緒にいたくて、レッスンの後はわざと女子高生っぽくダラダラ話をした。ダイエットに励み、先生な好きなヘヴィメタもたくさん聞いた。 クラスの男子に告白されたりもしたが、先生以外は心底どうでも良かった。 高校3年になった頃には、一階のカフェでお茶を飲んだり夏に花火大会に行くくらいまでに仲良くなっていた。 ある日のレッスンの後に、玉砕覚悟で想いを伝えた。 伝えながら私は子供だからどうせ無理だろう。無理だったら教室はやめよう。と考えたら涙が出ていた。 そうすると先生は私の顔を覗きこみ 「俺みたいなおっさんでいいの?」 と聞いた。 私は目の前が明るくなって、自分が暖かい光に守られているような気がした。 そして、私は今大学2年生になった。 今でもギターを持ってここに来ているのは親の目を欺くためだ。 ただ、父は満足そうに「お前が一つのことにこんな長く打ち込むなんて、立派じゃないか。」と言う姿には罪悪感を感じる。 お金が貯まったら一人暮らしするつもりでいるが、今はまだ実家暮らしだ。 「一人暮らししたら、このアパートの近くに住もうかな。」 私は先生の腕の中で言った。 「いいんじゃない?」 先生が私を後ろから抱きかかえるように体勢を変え、肩に優しく口づけをした。 今日1日、この瞬間をどんなに待ち侘びていたか。 先生がきよか、と呼ぶと私たちには特別なもので結びついてると感じられる。

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