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第6話

碧斗の場合 期末テストも終わって、あっという間に夏休みになった。 ライブまであと2週間ちょっとだから、スタジオを借りて練習している。 「碧斗、叔父さんのこときらいなのか?」 スタジオの部屋で岳くんと、2人きりになり不意に聞かれた。 「え?なんで?」 「こないだ、叔父さんのアパート一緒に行った時の、碧斗の顔こわかった。」 岳くんはベースを弾きながら言った。 あの時だ。カフェできよかとおじさんが2人でいた時だ。 「きらいじゃないよ。」 僕は岳くんのほうを見ながら、言った。 「おじさん、女癖悪いんだよね。 また女の人泣かせないうちに、声かけたんだよ。」 僕はギターのチューニングをしながら、笑ってごまかした。 「たしかに、叔父さんかっこよかったもんな。遠目からだったけど、、、。」 「えー?ただのおじさんだよ。」 そんな会話をしていると、奏と原田くんが来て練習が始まった。 こうしている間にもレッスンの合間にきよかとおじさんは会っているんだろうか。 おじさんはどんなふうに、きよかの体を触るんだろう? あの骨ばってるごつい指で、髪を首を腕を抱いてるんだろう。 そんなことを考えていると、お腹の辺りが熱くなって、一瞬どきん。となる。 そうして、僕はギターを間違った。みんな気付いていなかったけど。 いや、岳くんが一瞬こっちを見たから岳くんだけは気付いたかもしれない。 練習が終わり、携帯を見るとおじさんからメッセージが来ていた。 ー 鍋食わないか? 悔しいけど、僕はおじさんのアパートに向かう。 玄関を開けて横を見ると、きよかがキッチンにいた。 「おー。碧斗くん。おかえり。」 「、、、ただいま、、、?」 反射的に返してしまった。なんできよかがいるんだ? 襖があいて、おじさんが顔を出して笑った。 「あおとー!なんか怖い映画でも見るか?」 僕は苛立ちながら、おじさんのところへ行って小声で言った。 「おじさん!彼女も居るなら言ってよ!」 「え?俺メッセージに入れてなかった?」 「入れてないよ、、、!」 おじさんは、ビールを飲みながら僕に顔を近付けて言った。 「お前、女の子と付き合ったことないだろ?夏休みもバンドばっかだし。女に耐性つけるための練習だよ。」 こーゆーおっさんくさいとこが、うざいんだよな。 「酒くさいから、寄らないでよ。」 「んだよ。つれねぇなぁー。」 「はい。お鍋できたよー。」 きよかが、グツグツ煮立っている鍋を持ってきた。 鍋の蓋に鳥獣戯画の兎やら蛙やらの絵が描かれていた。 鍋がテーブルの上に置かれた瞬間、部屋の温度が一気に上がった気がした。 「、、、てゆうかなぜこの真夏に鍋、、、?」 僕は、理解できず聞いた。 そうするときよかが、こっちを見て言った。 「今日ね、食器屋さんでこの鍋を見つけたの。この柄可愛くて安かったから買っちゃった!」 えええ。なんか重いな。この人。 同棲もしてないのに、鍋とか買っちゃうのか。 いやこれが普通なのか? 僕が驚いている間に、2人は汗をかきながら鍋をつついている。 「碧斗も食えよ。肉うまいぞ。」 「あ、、、。いただきます。」 僕は鶏肉を、食べながら汗が頬を伝うのを感じた。 鍋を食べながら、きよかは色々質問してきた。 「碧斗くん、肌白いねー。運動部とかは入ったことないの?」 「進路はもう考えてるの?でもまだ2年生だから今を楽しみたいよね!」 僕も当たり障りなく答えた。 きよかが気を遣っているのが分かった。 鍋が無くなる頃には、きよかとおじさんは、酔いが回っていた。 すると、おじさんが小声で僕らに言った。 「い〜か。実はこの部屋な。」 僕らはおじさんの真剣な顔を見た。 一階のカフェが夜のライブ営業になったのだろう。 キッチンの窓から下手な歌が聞こえる。 「夜中に出るんだよ。」 「、、、は?」 僕ときよかは間抜けな声を出した。 「いやいや。私泊まるときそんなん感じないけど。」 きよかが疑いながら、言った。 「大抵出るのは、俺1人の時なんだよ。そもそも、君に霊感あるんかい。」 おじさんは、小馬鹿にしたようにきよかに言った。 「どんな幽霊なの?」 僕はおじさんに聞いた。 「それがよ。この部屋っていうより部屋の外なんだよ。夜中の2時、3時になると必ず目が醒めてさ。そうすると部屋の外の通路をヒールで歩く音が聞こえるんだよ。」 「、、、それライブハウスの客が迷って2階に上がってきてんじゃないの?」 「でも、絶対に俺の部屋の前で止まるんだよ。」 「隣の人じゃないのぉー?」 きよかが、明らかに疑いの目を見ながら言った。 「隣はな、大学生のちょっときもい男なの。」 「生き霊だったりして。」 僕は何も考えず、口に出していた。 2人とも驚いてこっちを見た。 あ、、、。まずい、、、。 すると、きよかが目を逸らしてふっと笑って言った。 「先生、恨まれるようなひどいことしたんじゃないの?」 おじさんはは酒の缶を揺らしながら、笑った。 「生き霊かぁ。なら仕方ねぇな〜。」 そのあとも、他愛ない話をした。 思いの外、僕はやり過ごせた。 気付くと、僕はソファで目が覚めた。 部屋は真っ暗で、床を見るとおじさんときよかがテーブルを挟んで寝ていた。 、、、寝落ちしちゃったのか。2人とも相当飲んでたもんな、、、。 きよかといるときのおじさんは、優しかった。 目尻にシワを寄せて、思いっきり笑っていた。 そんな顔を見るのはもっと辛いかと思った。けど思いの外平気だった。 きよかに、嫌な態度を取ろうと思えば取れたんだ。 それより、おじさんに気を遣わせることのほうが耐えられない。 きっと、おじさんは困った顔で笑って僕ときよかの間を取りなすだろう。 そんなきっかけを作ることはできない。 、、、。きよかは、傷付いただろうか。 「生き霊だったりして。」 自分の言葉を思い出した。 そんなつもりはない。といえば嘘かもしれない。 きよかは、僕にできないことをやってのける。 近所の食器屋で鍋を買うこと。 おじさんのライターを自然に借りること。 おじさんの変なTシャツを着ること。 僕はこちらに背を向け転がるおじさんの首筋と肩を見た。 そうするとまたお腹の辺りが熱くなる。今日は変だ。我慢出来なくなり、自分の股間に手を伸ばした。 2人ともいびきをかいてよく寝ているが、絶対に気付かれないよう静かにベルトを外しチャックを下げる。 こうなったらもう止まらない。 自分のものを擦りながら、おじさんの指や目尻の皺を浮かべる。額の汗もタバコも。 「あおと。」 おじさんの声を脳内再生する。 そうして、静かに声を押し殺しながら僕は射精した。 息を整えて、トイレに行くふりをして手にかかった液を流した。 ふとトイレに置いてある時計を見ると、夜中の2時だった。 耳を澄ませたが、ヒールの音は聞こえない。 「俺が1人のとき、夜中に出るんだよ。」 おじさんの言葉を思い出し、僕は小さく笑った。 生き霊は実は僕なんじゃないか? 自分でも気付かないうちに、女の姿で生き霊になっておじさんを見張りに来ているのかも。 そんなことを考えながら、僕はソファに戻り眠りについた。

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