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第7話

清香の場合 先生の家に行く途中に、近所の可愛い食器屋でお鍋を見つけた。 鳥獣戯画のとぼけた兎や猿が描かれていて可愛かった。 私は先生と鍋をつつくのを思い描きながら、買っていた。 店を出たあと、気付いた。 、、、うざいかな、、、、? 人は幸せすぎると、周りが見えなくなるタイプと不安になるとタイプがいる。 私は後者だ。嫌われないか、困らないか、色々考えながら鍋を持って歩く。 私は、覚悟を決めて先生の部屋に入る。 ちょうど、先生はキッチンでタバコを吸っていた。 私は不安を隠して、笑顔を作った。 「今日さ、鍋食べない?」 先生は不思議そうな顔をして聞いた。 「鍋?なんで鍋?」 私は無言で、紙袋から鍋を出した。 先生は私の手元の鍋をのぞいている。恥ずかしくて顔が上げれなかった。 「なんだっけ?これ。鳥獣、、、?」 また先生は不思議そうな声で聞いた。 「鳥獣戯画です。可愛くて思わず買ってしまいました。」 私は下を向いて言った。 不安やら、恥ずかしいやらで先生の顔を見られなかった。 そうすると、先生があっけらかんと言った。 「いーじゃん!鍋。暑い時に食う鍋もまたうまいぞ。」 私は先生の顔を見上げた。先生は優しく笑ってこっちを見ていた。 「、、、うん!私そしたら、材料とビール買ってくるね!」 とたんに気持ちが晴れやかになった。 「俺も行くよ。」 2人で近所のスーパーで買い物していると、先生が閃いたように言った。 「鍋なら、人いたほうがいいだろ。碧斗、今夏休み中だから呼んでもいいかな?」 碧斗くんか。 カフェで会ったとき、怖かったけど大丈夫かな? 「ぜんぜんいいよー。」 私は笑顔で返事をした。 碧斗くんは、カフェの時と違って気さくだった。私が緊張して、色々喋っても笑顔で答えてくれた。 白い頬に汗がつたっていた。 学校でも、きっとモテているだろう。 先生も酔っ払っているのだろう。声が大きくなっている。 私は、酔いも回っており、美しい男たちに囲まれて少し良い気分になっていた。 そうすると、急に先生が声をひそめて言った。 「い〜か。実はこの部屋な。」 「出るんだよ。」 何を言い出すかと思えば。 何回も泊まっているが、そんなもの見たことがない。 「大抵出るのは、俺1人の時なんだよ。そもそも、君に霊感あるんかい。」 たしかに。そう言われりゃそうだ。 生まれてこのかた、一度も幽霊なんて見たことがない。 話を聞くと、夜中2時、3時に部屋の前の通路をヒールで歩く音が聞こえるらしい。 そして、決まって先生の部屋の前で止まると。 私が疑いの声を先生に向けていると碧斗くんが言った。 「生き霊だったりして。」 私はとっさに碧斗くんの顔を見た。 そうすると、先生も赤い顔で驚いて碧斗くんを見ている。 碧斗くんの、あまり変わらない表情にかすかに焦りが見えた。 私はふっと視線を下に向け、冷静に言った。 「先生、恨まれるようなひどいことしたんじゃないの?」 先生は笑いながら言った。 「そうだとしたら、仕方ねぇな〜。」 私は、先生が今までどんな恋愛をしてきたかまだ知らない。 聞いていいのか、分からず聞けていない。 碧斗くんは知っているのだろうか? この場で聞き出そうかとも思ったが、先生が嫌な顔になったら怖くて結局聞けなかった。 いつの間にか寝てしまったらしい。 あ!お母さんに連絡、、、! まずい。と思い出して、夜中に起きた。 部屋は真っ暗だった。 あ。今日は友達の家でゼミの発表の練習をするから遅くなる場合は泊まると言ってきたんだった、、、。 私は安心してまた寝ようとした。 が、変な音が聞こえる。いや。声? 、、、。ん?え? 背中越しに、苦しそうな息が聞こえる。 え?先生? いや。先生のいびきが聞こえる。 あ! 碧斗くんだ。 エアコンは効いているが、この暑さだ具合が悪くなってしまったんだろうか? 私は心配で起きようかと思ったが、気付いた。 あ。これってまさか、、、。 どんどん息使いが苦しそうになっていき、しばらくすると静かにふー。とため息が聞こえた。 やっぱり、そうだよね、、、? 私は心臓がバクバクしていた。気付かれないように寝息を立ているフリをした。 その後、碧斗くんはトイレに行ったらしい。 碧斗くん、高校生だもんな。 どんな顔でしていたんだろう、、、、? あんな綺麗な顔して、、、。 まさか、私がいるから、、、? そこまで考えて、ないないない。とバカな考えを打ち消した。 変なことを考えないよう、別のことを考える。 ふと、碧斗くんの言葉を思い出した。 「生き霊だったりして。」 目を閉じて耳を澄ませた。 ヒールの音、、、聞こえないな。 もし、ヒールの音が聞こえたら玄関から出て見てやるのに。 「あげないよ。」 って面と向かって言ってやるのに。 死んだ人間には敵わないけど、生きている人間なら戦える。

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