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第10話 ※碧斗

打ち上げは、ライブハウスの近くの小さなバーだった。 トーヤさんが貸切にしていたらしい。 ボックス席がいくつかあり、そのテーブルにはすでにお酒が用意されていた。 「碧斗くん。なんか、ここにいる人たちも怪しいからすぐ帰ろうね。」 きよかが、耳打ちした。 「うん。」 僕は頷いて、トーヤさんの取り巻きを見た。 たしかに強面で、体格も良い。女の人たちも派手な見た目が多い。 ふと、隣を見ると岳くんが年上の女に話しかけられていた。耳元でなにか囁かれていたが、岳くんが首を横に振って女は離れていく。 「岳くん、平気?」 「あぁ。トーヤさんの飲み会っていつもこんな感じなんだ。碧斗も何かあったら無理せず言えよな。」 1時間もすると、バーの中は人がいっぱいだった。僕は話しかけられた女たちを適当に交わしていた。 ふと、きよかがいるか心配で辺りを見回した。きよかは原田くんと奏と話ししていた。 岳くんは、相変わらず女に絡まれている。 僕はほっと胸を撫で下ろし、トイレへ行く。 こんなに狭い部屋に人がいる所は初めてだった。タバコの煙か熱気が充満している。 色んな人たちの話し声。 鼻にピアスしている人、つけまつ毛バサバサな人、顔にタトゥーが入った人、、、。 人々をかき分けてやっとトイレに辿り着く。 このまま帰ったら、母さんに怪しまれるな、、、。 誰かの家に泊まらせてもらうか、、、。 ここまできよかを引き止めたが、もう限界だろう。 そんなことを考えてトイレから出ようとすると、笑い声とともに勢いよく扉が開いた。 トーヤさんの取り巻きの男だった。かなり酔っ払っているらしい。 軽く会釈して、出て行こうとすると腕を掴まれた。 「、、、っ!」 急に走る痛みに、思わず振り向く。 そうすると男は顔を近づけて言った。 「お前、あのでかい奴の連れか?」 でかい、、、?岳くんか、、、? 僕が頷くと、掴んでいる手に力を込めてきた。 「あいつに調子に乗るなって言っとけ。」 自分で言えよ。 僕がいま、心配しているのはきよかをどうやっておじさんちに行かせないかだ。 ここにいる人にも、バーのパーティも微塵も興味なかった。 早くここから出て、今すぐきよかがちゃんと中にいるか確かめたい。 そう考えている間も男は離そうとしない。 「本当に女みてーだな。」 男が顔を近づけて言った。僕は一刻も早くここから出たかった。 「離せよ。」 思わず口から出て、しまったと思った。 男は舌打ちし、僕の体を壁に勢いよく押し付けた。背中に衝撃が走り、壁と男に挟まれ余計に身動きが取れなくなった。 顔を手で固定され、口のなかにタバコくさい熱い粘膜が入り込んできた。 「ーーー!!!」 口のなかにタバコと酒の味が入り込み、胃から何かが逆流しそうになるのを感じた。 僕は足で男の体を蹴り上げ、男の体が離れたと同時に堪えきれず床に吐き出した。 「うわ!てめぇ、汚ねぇだろ!」 男が拳を振り上げたとき、扉が開いた。 「碧斗!!!」 岳くんだった。男の体を跳ね除け、僕を支えた。 その隙に、男はトイレから逃げていった。 「大丈夫か!?碧斗!」 「、、、うん。ありがとう、、、。 僕もう帰りたい、、、。」 汚い。汚い。汚い。気持ち悪い。 僕の中に黒く、粘ついたヘドロのようなものが入りこんだ感覚だ。 岳くんは、僕を支えながらきよかのもとへ連れていった。きよかは驚き、急いで店を出て、僕と一緒にタクシーに乗り込んだ。 僕はたまにくる吐き気を堪えるのに必死だった。 きよかが隣で誰かに電話している。 きよかの声も耳障りだった。 タクシーが停まり、外を見るとおじさんのアパートだった。 「家の住所、分からないからとりあえず先生んちに来ちゃった。碧斗くん歩ける??」 「碧斗!!!!」 おじさんの声が聞こえた。 暗闇だから、顔は分からないが声は慌てていた。そんな声を聞くのは久しぶりだった。 「先生、私がいたのにごめん、、、。」 きよかは泣きそうな声だった。 「大丈夫だよ。とりあえず、今日はこいつ休ませるから、、、。タクシーで帰れるか?」 「、、、うん。碧斗くん、本当にごめんね。」 そう言ってきよかは、タクシーに乗って帰った。 おじさんの部屋に着いて、玄関にへたりこんだ。 慌てて、おじさんがコップに水を入れて僕の口に運ぶ。 「お前まさか酒なんか飲んで無いよな、、、?」 「飲んでない、、、。」 僕の体を持ち上げるようにして、部屋にあげる 。

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