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デートしたいのはあなたなのに3
週刊誌のありもしないでっち上げ記事に気分が悪くなるし、颯矢さんには軽く受け流されるしでテンションが下がる。
俺はマネージャーの颯矢さんが好きだ。大学生のときにスカウトされてこの世界に入り、右も左もわからない俺をマネージメントしてくれたのは颯矢さんだ。
銀縁眼鏡の奥はクールな奥二重で、一見すると冷たそうな印象を受けるけれど、実際はとても優しい人だ。
そして、マネージャーなんてやっているけど、俳優になったっておかしくないイケメンだ。
それを颯矢さんに言ったことがあるけど、俳優、いや芸能人はオーラが必要だと言われたことがある。自分には、そのオーラがないと言っていた。でも、俺が見ると、そのオーラとやらはよくわからないし、何より、俺にそんなものがあるとは思えない。
確かに、この世界に入る前、大学ではそこそこモテてたから、自分で言うのもなんだけど、そんなにブサメンではないとは思う。でも、一番イケメンなわけではない。
だけど、颯矢さんは違う。誰が見ても間違いなくイケメンだ。実際、颯矢さんを初めて見たとき母さんは、イケメンね〜とぽーっとしながら言ったくらいだ。
そんなイケメン颯矢さんが俺は好きだ。
本人には何度となく告白している。けれど、その度に軽くあしらわれている。俺が芸能界に入って初めて接したのが自分だから勘違いしているんだ、と。
確かに、芸能界に入って初めて接したのは颯矢さんで、仕事かもしれないが優しくしてくれたのも颯矢さんだ。だから、好きと勘違いしていると颯矢さんはそう言うけれど、この気持ちは確かに恋心で勘違いなんかじゃない。
でも、それを言っても颯矢さんは相手にしてくれない。フラれるのも辛いけど、こうやって相手にされないのも辛い。
けれど、そんなこと言っても颯矢さんの態度は変わらない。ここまで来ると、もうフラれてるようなものだけど、そう思いたくない自分がいる。
ありもしないでっち上げの熱愛報道と、ほんとは熱愛したい相手の冷たい態度とで俺は凹んでしまう。そんなときはスイーツだ。
いつもなら、体重気にして残すのに、今日は自分のぶんのあんドーナツは全部食べてやる。
でも、このあんドーナツ美味しいな。
「このあんドーナツ、どこで買ったの?」
「撮影現場の近くにあったパン屋だ」
「そっかぁ」
「美味しくなかったか?」
「逆。美味しかったから、また食べたいと思ったんだけど、今日の撮影現場って行かないもんね。チェーン店ならいいな、って思っただけ」
「そうか。事務所の近くにもお菓子の美味しい店はあるだろう」
「もう、結構、開拓したけどね。テレビ局の近くとかも開拓するかな。ケーキビュッフェとか、もう行かれないし」
俳優になって悲しいこととか特にないと思ってたけどひとつだけあって、それは以前みたいにケーキビュッフェに行かれないことだ。
まぁ、母さんが入院していれば、それだけで行かれないけれど。母さんとケーキビュッフェかぁ。楽しかったなぁ。
母さんが休みの日に、俺が学校が終わった後に待ち合わせて食べに行っていた。でも、俺が芸能界に入ってからは、最初の知名度のないときに行ったくらいで、それなりにドラマとかに出させて貰ってからは行かれなくなった。
でも、母さんが医者の見立て通りだとしたら、最後にもう一度行きたいけれど、母さんの体調を考えると一時帰宅も無理だろうな。最近は起きているのも疲れるみたいだから。
そんなことを考えていたら気持ちが滅入ってきた。ダメだダメだ。これから母さんのところにいくのに、元気なかったら心配かけてしまう。元気出さなきゃ。
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