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第13話 魔九来来 ③

 なぜ使えるものと使えないものがいるのかは判明していない。たまに解明しようと試みる者が現れるが、大抵は「神の気まぐれにより授かったもの(よく分からんかった)」に落ち着く。  昔は「魔」の力――魔法と呼ばれていた――とされ、魔物の血が混じっていると差別の対象だったが、そんな差別は今やど田舎や辺境の地にかすかに残る程度である。 「流石に魔九来来(これ)は知っていたか」  火の付いた骨をかまどの下に投げ入れる。火はたちまち枯れ枝などに燃え移り、勢力を拡大していく。 「こうやって石を熱して、その上で食材を焼いていくんだ」 「ほえ~。火とか、めちゃくちゃ便利な力じゃん。当たりじゃん。すごいよニケ!」  興奮気味な賛辞に、ニケは気を良くする。  赤くなった頬を指で掻く。 「ま、まあな。赤犬族の「赤」とは、「炎の瞳」という意味もある。僕らは火の力を持ったやつがたま~に生まれるんだ」 「へえ~! そうなのか。なあ、もっと他になにか出来るのか? 火を噴けるとか。辺り一面焼け野原に出来るとか」  ニケは白目を剥きそうになった。 「僕は火竜か!」  火は取り扱いを間違うとなにもかも燃やしてしまうのだから、大きい火は使わない。魔九来来は名前の通り九つの力が使えるようになるが、それはその者の才能などに大きく左右される、らしい。  ニケは「第一の火・種火(たねび)」をやっと自在に扱えるようになったばかり。小さい火を生み出すのがせいぜいなのだ。  第四からは能力を覚醒させなければ使えない代わりに、物語のようなどでかい炎を扱えるようになる。男の子なのでその辺はちょっと憧れるも、ニケは一般人だ。そんな強い力は必要ないと思っていた。  そもそも覚醒することができた者の話など聞いたことがない。なので、魔九来来は第三の力までしかないというのが一般認識だ。魔九来来ではなく「魔三(まみ)来来」に名前を変更すべきだと思う。 「なぁんだ」 「ほれ。僕は魚を捕まえておくから、お前さんは宿から二人分の野菜を持ってきてくれ。味噌と砂糖も忘れるなよ」 「ええ? また重い物を……」  肩を落とすフリーに「じゃあお前さんが魚捕獲係をやるか?」と訊ねると、ぴゅーっと宿へ走っていった。 「やれやれ」  僕がやれと命じたら、サッと動いてほしものだ。

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