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第42話 目立つ ②

大通りの脇を歩くも、面白いように視線を向けてくる。やはりというか、ヒトの多い街へ出て確信した。  ――様々な種族はいるが、白髪ってあんまり見かけないな。  中には気にしないヒトももちろんいるが、あちこちから見られながらキミカゲのところへ戻ると、お客――ではなく、患者さんが訪れていた。 「おっと」  足を止め裏口に回ろうかと思ったが、目が合ったキミカゲが手招きしていた。  一瞬躊躇したが、フリーを連れて表から堂々と入る。 「薬は朝と寝る前に飲んでくださいね」 「いつもありがとうございます、先生。あら、ニケちゃん」  薬の入った包を受け取った老婆――トメさんがニケを見て皺だらけの顔で笑みを深める。  フリーは初対面だったが、入院している間にお手伝いしていたらしいニケとは親しそうだった。トメさんにちょこちょこと近づき、心配げに顔を見上げる。 「トメさん。どうかなさったのですか?」 「ちょっとねぇ。足だけでなく、腰まで悪くしちゃって。痛み止めのお薬を貰いにね」  言いながら、髪を梳くように犬耳頭を撫でる。 「そうでしたか」  その光景を見て、キミカゲはそっと目を細めた。  はじめは患者さんたちに「見慣れない子がいる」「座敷童かな?」などと、不審がられていたのが嘘のよう。お婆様方に気に入られているようで安心した。  まあ、お婆様といってもキミカゲから見れば余裕の「お嬢様」なので、トメさんたちがニケと戯れている光景はひたすら和む。  狭い診察室は、いつかほほ笑ましい空気で満たされるようになった。と、キミカゲは感じている。  嗅覚の良い方は薬のにおいを嫌がって病院に来ず、悪化させてしまうケースも少なくない。そんな患者がどういうわけか、近頃病院に顔を出すようになった。  ありがたいことだが、どうなっている? と首を傾げた。  原因はすぐに判明する。  嗅覚良い種族代表のような赤犬族――しかも子ども――が、嫌な顔一つせず病院で働いているのを見かけ、なんか闘争心のようなものに火が点いたらしい。  「負けられない!」となったようだ。……何と競っているのかは不明だが。  病院嫌いで有名な頑固おやじ(キミカゲから見れば以下略)が、病院に突撃してきたときはたまげたものだった。  そんなことを思い出していると、トメさんは手を振る。 「じゃあねぇ、先生。また来るわねぇ」 「はい。お大事に」 「お気をつけて」  手を振り返すキミカゲの前で、熟練女将のような礼を決めるお子様。  そんなニケの背中を見て、薬師は微笑む。 「早かったねぇ。お散歩、もういいのかい?」 「それが~……。フリーがちょっと目立つんで、戻ってきました。落ち着かんです」 「え?」  やはり人目を集めていることに気付いていなかった白髪が、驚きの声を上げる。  ある程度予想していたキミカゲは、正座を崩して胡坐をかく。 「ふむ。まあ単純にそこまで見事な白髪はなかなかお目にかかれないからね。見慣れれば飽きて向けられる視線は減るさ。それまでは……そうさな、手ぬぐいでも巻いていればいい」  そう言って懐から使い込まれて薄くなった手ぬぐいを出して、ぴらりと広げて見せる。  緑の生地に鈴蘭の刺繍が入っており、このおじいちゃんの持ち物、いちいち可愛い。  フリーはまた鈴蘭出てきたなと思う。

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