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有罪 1

    暗くなった携帯電話の画面を見つめる自分自身の表情は、ぽかんとしていて悲壮感の欠片もなかった。  涙の一つでも零せそうな雰囲気でもあれば自分自身に欠片程度の同情を寄せることができたのかもしれないけれど、そんな片鱗もない。  それは数秒前に、恋人に「お前重すぎ、飽きた」と短いメッセージで捨てられた人間の顔としては味気ないものだ。 「……おそろいの指輪とかして……いい感じだと思ってたんだけどなぁ」  小さくごちるように言ってみるけれど、思いのほか感情が乗らないのは二人の恋人関係がどこか一歩通行のような気がしていたからだった。  大学とバイトの合間に、時間の許す限り自分にできることはすべて要求に応えていたつもりだったけれど、それでは不十分だったのか?  左手を日にかざすと、薬指に収まっている少しサイズの大きい指輪の白々しい光が目を射る。    男にしては綺麗と言われる指から輪っかを引き抜こうとした瞬間、するりと指先から滑り落ちてコンクリートにぶつかってカチンと音を立てた。  転がるかとひやりとした胸の内をあざ笑うかのように、指輪はからかうようにその場でひとしきりくるくると回ってから落ち着く。  その様子が、あっさり捨てられた自分のように見えて、力任せに蹴り飛ばす。  カツ カツ と音を立てながら道を転がっていくのを見送って、「帰るか」と小さく零した。  久しぶりのデートだからとバイトも休みにしてもらって、いそいそと待ち合わせに来たのがどれほど滑稽だったのか……待ち合わせの目印にしていた像の足元から腰を上げると、目の前にさっと手が差し出された。  男らしい大きな手だと感想を抱いたけれど、それよりも鼻に皺を寄せたくなるようなものがその掌に収まっているのに目がいく。 「なに?」  つんと言った言葉に怯むように「これ」と言葉が続いて、掌の上の物を掴んで差し出してきた。  先ほど蹴り飛ばして視界から消えて……ほっと感じた物が再び目の前に差し出されて、不快感しかない。 「悪いんだけど、捨てておいてもらえる?」  顔も向けずにそう言って歩き出したと言うのに、男は縋るようにして後をついてくる。 「ケイ君だろう? 佐藤だけど」 「は?」 「ケイ君と約束していた佐藤だ」  繰り返されて、知り合いだったかと振り返った。  確かに名前は河原圭吾だから間違いと言うわけではなかった、けれど「ケイ」と言う呼び方を許すのは恋人だけでそれ以外の人間はケイゴと呼ぶ。 「あんた、誰?」  さっき振られたばかりと言うイライラとした感情をぶつけるように、男の顔を睨み上げようとしてその背の高さに驚いた。  

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