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有罪 14
メニュー表を手渡されて……うまく問いかけをごまかされたと思った。
とは言っても、行きずりの相手にそこまで重い話をするのもどうかと思うから、引き際は見極めないといけない。
「ああ、そうだ。忘れないうちにこれを返しておくよ」
何事かと見ていると、佐藤はスーツのポケットから何かを取り出してテーブルに置いた。
銀色の、少し大きい華奢な指輪に思わず顔をしかめる。
せっかく忘れていい気分でいたと言うのに、現実を突きつけられたような気がしてイラっとした。
「それは捨てたんだ」
ぶっきらぼうに言って指先で虫でも弾くようにテーブルの上から落とすと、佐藤は慌てて床を転がるそれを拾いに行く。
捨てた と、いらない と、言っている物を拾われるのは正直、いい気分じゃなかった。
「……しかし、貴重品だろう?」
「振られたの! ペアリングの片割れだから要らないし! サイズもあってないし! 二個五百円のセール品なんだよ!」
子供のおもちゃのようなそれを、それでも大事だと思っていたことに唇を嚙むしかない。
佐藤は手の中の指輪とオレの顔を見比べながら、どうしていいのかわからない顔のまま隣へと腰を下ろして手を伸ばしてくる。
突然のことに押し返そうとする前に、手が背中を優しく撫で始めた。
「すまない。そんな事情のあるものだなんて思わなくて、……泣かないでくれないか?」
泣いてなんかいなかった。
予感があったからか悲しくもなかった。
そして、追いすがるような未練もなくて……
けれどただ、抱きしめてくれる佐藤の腕の中が気持ちよくて、泣いたふりをしてその胸に縋りつく。
セックス以外でこうやって抱きしめられるなんて、本当に久しぶりだった。
食事を終えて腹が和んだら、どちらともなくまたベッドへと戻ってお互いの体をまさぐり合って……
息が合う?
タイミングが合う?
佐藤とのセックスはぴたりと寄り添い合うような、そんな時間だった。
「ぅ……まだなんか挟まってるような気がする……」
服を着るのが当然なのに、着てしまうとなんとなく違和感があってもう一度脱いでしまいたくなる。
でもいい加減ホテルを出ないと と歩き出そうとすると、バランスがうまく取れなくてよろめいてしまった。
そうすると、佐藤が手を伸ばしてきて……
助けるための行為だってわかっているのに、オレがその手に縋りつくとどちらからともなく唇を合わせてしまって、意識して引き離さなければどんどん深いキスになっていきそうな雰囲気だった。
時間を延長してまで、お互いにこれ以上ないほど堪能したはずなのに。
唇から繋がる銀の糸が切れそうになって、また再びキスを繰り返す。
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