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有罪 15

    「んっ んんっ……だめ、駄目だって!」  決死の覚悟で佐藤を押しやると、まるで捨てられた犬のように切なげな視線に晒される。  そう言えば、昔飼っていた犬がオレと離れたくないとこんな表情をしていたな と思い出して苦笑した。  ずいぶんと長生きしたその犬を看取ってやることのできなかったもの悲しさを思い出して、二歩ほど佐藤から距離を取る。 「こんな時間だし、もうこのまま泊ま  」 「泊まらない」 「それなら、もしよければこの後、少し飲みに……」 「行かない」  さらっと返すと捨て犬がショックを受けたような顔になった。 「じゃあ、……また会ってもらえるかな?」 「会わない」  間髪入れずに返しさっさと出口へと向かうと、追いかけていた佐藤に肩を掴まれて引き戻される。  驚くほどの強引さに戸惑うも、どこか怒りを含んだような表情に腕から逃れようと身を捩った。 「さ、さと さん?」 「服を脱いで」 「は……はぁ⁉」  さっき、やっとの思いで着た服を脱げと言われて、反射的に体を捩る。  いきなりわけのわからないことを言い出されて、「うん」と頷いて返すことのできる人間はそう多くないだろうし、オレは違う。  引き裂かんばかりに服を掴まれて、恐怖を覚えるよりも怒りを覚えた。 「いい加減にしろっ! レイプでもしたいのか!」  びりっと喉が痛くなるほどの大声だったからかオレを半分剥いた佐藤ははっと手を止めて、ゆっくりと頭の先から爪先までの様子を見ながら青くなる。  先ほどまでは興奮で赤い と思っていただけに、今では具合を聞きたくなるような顔色にさすがにこれ以上何も言えなくて、もそもそと服を整えていく。  佐藤の目がそれを追って……残念と言うか、悲しそうだ。  まるで、待てを要求された犬のようだったから、衝動的に起こしたんだろうなってわかるこの騒動に対しての怒りはどんどんと萎んでいった。 「すま ない。そんな、……ことを、したいわけじゃないんだが……そうすれば、君は私の傍にいてくれるのかな?」 「は? ……はぁ⁉」  佐藤の言葉を咀嚼して考えてみたけれど、発想がやばすぎる!  こいつの思考回路を考えてみたけれどオレには一切理解できなくて、思わず服を握り締めて後ずさる。   「や……あの、なんて言うか、……家族! そう! 家族が心配するから! 帰らないと!」  オレのわざとらしい言葉に佐藤は一瞬泣くんじゃないかって思わせるように顔を歪めてから、「そうか」と絞り出した声を出して俯く。  その寄る辺ない雰囲気が突き放そうとしたオレの心をチクチクと刺激する。

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