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有罪 16

「佐藤さんは、さ。今、自分のセクシャリティがはっきりして不安なんだと思う」 「不安……」  ぽつんと繰り返した佐藤は複雑な色を両目に浮かべて、オレをまっすぐに見据えている。  その目には、性を自覚させたオレに対してなんらかのマイナスの感情を持っているとか、そう言った雰囲気はみじんもなかった。 「オレも、自分が男の方が好きだってわかった時は……悩んで……悩んで」  自分がおかしいのかと悩んで、そして悲しくて、混乱してどうしようもなくて……でも誰にも相談もできなくて辛くて、でも口にも出せなくて……  そう言ったぐるぐると堂々巡りの青時代のことを思い出して、苦い笑いを口の端に乗せる。  あの時期にもし相談できる相手がいたとしたら、オレはもう少し生きやすい人生を歩んでいたかもしれないと思うと、自分が目覚めさせてしまった手前、何もせずに放り出すのも気が引けた。   「簡単に相談できる話じゃないから余計にそうだと思うんだけど、困ったこととか悩みとか、そう言ったことを話したかったら……オレでよければ付き合うけど  」  話を聞く、それだけで人は救われるから。 「どうかな? ちょっとは安心できそ?」  へたくそな作り笑いを浮かべて、ピクリともしなくなった佐藤の顔を覗き込む。 「君が、付き合ってくれるのか?」 「うん? うん、いつでも相談してくれればいいよ! オレは深いことは言えないかもだけど、経験の多い知り合いとか紹介もできるし」 「いや、君が付き合ってくれるならそれでいい」  佐藤の手が動いたことに反射的に身を竦めそうになったが、ぐっと堪えてじっとしていると手を優しく握り込まれた。  背が高いのだから当然と言われればそれまでなのだけれど、佐藤の大きい手はオレの手を包み込んでしまう。  少し前までお互いの体をまさぐっていた手は熱くて、こんなふうに触れあっているとじわじわとした熱が膨れ上がってくる。  けれど先ほどのような暴力的な熱はなくて、佐藤は穏やかに微笑んでいた。  相談ができるようにとお互いの連絡先を交換し合って、ラブホテルを出たところでもう一度酒に誘われたが固辞した。  明日は朝から大学だし、衝動的な部分を見ると佐藤とは適切な距離を取った方がいいんじゃないかと思ったからだ。  オレを包み込むような熱と、真っ直ぐにオレを見てくれる瞳は手放しがたかったけれど、幾ら好意を向けられても傷心中でそんな気分になれない以上ない袖は振れないんだからこれが正解だろう。 「じゃあ、せめて夜食に何か買わせてくれないか?」 「ええ⁉ そんなの悪いから……」  と、言いつつも、夜食と言うか食べ物を買ってあげると言うのは魅力的な言葉だ。

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