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有罪 18

 恋人つなぎにした手に、妙な汗が噴き出しているなんて口に出せなくて。  佐藤は大きな体を曲げると、あまりの突然な出来事にぽかんとしているオレの唇にちゅっとキスを落として、照れくさそうに微笑んだ。  携帯電話の電話帳に『佐藤(仮)』と言う項目が増えた。  あの後、なんとか話し合って付き合うのを(仮)にすることができた。  彼女もいたんだったら完全なゲイではなくて、どちらとも付き合っていけることができると言うことと、オレは焦らなくても(逃げたいけど)逃げないからまず! お互いのことをよく知ってから交際をしようと説得したのだった。 「つぅっっかれたぁ!」  別に、悪い奴じゃないなとは思う。  オレとは違う考え方と言うか感情の山の部分が独特だなぁと思う程度で、それ以外は見た目通りに真面目な感じがして、好感度で言うなら……体の相性も合わせてしまうとすこぶるいい。  だから余計に悪い。  まるでオレの行動が佐藤をキープしているように思えてしまって、申し訳ないと言うか座りの悪いような感覚を受ける。  とは言え……佐藤 だ。  名前を聞いたオレに佐藤はそれだけを返した。  出会い系で使う偽名感満載の名前を言う佐藤の表情は読めなくて、だからと言って本名は? とか聞くことができなかった。 「本名で出会い系なんてする奴はいないだろうし」  それに経験上、バイならば最終的に女の方に行ってしまう。  だから佐藤との関係は(仮)でいいんだと思う。  恋人に振られて寂しいと思う部分を埋めてもらう代わりに、ゲイの世界のことを教える。  オレは失恋の傷が癒えたら、佐藤はゲイの世界に詳しくなったら……きっとそれだけで繋がっているんだから、自然と解消してしまうような関係になるだろう。 「そんな関係だから、別に知らなくてもいいんだけど……でも、本名聞きたかったな」  (仮)の文字を指先でなぞりながら、佐藤のくれた熱の余韻に浸りながらアパートへと帰っていった。  一限目を終わらせると次は午後からの三時限目まで授業がない。  四年生になるまでにとれる単位は取り切り、あとは卒業を待つだけになるとこんな授業ペースもざらだった。  時間はあるけれど短時間のアルバイトに入れるほどじゃなく、友人達と遊びに行くのも懐事情があったから仕方なく家に帰ることにする。  日差しはきつく、視界の色彩は鮮やかで明暗をはっきりと分けたきつい夏のものに変わりつつある。  寒いのよりは暑い方が好きなオレには過ごしやすい季節だけれど、佐藤はどうだろうか?  あの日から一週間…… 「電話! 電話をかけて来いよ!」  佐藤から来たのは短い「おはよう」と言う短いメッセージが一度だけで、それ以外の会話もなければ電話がかかってきたこともなかった。  

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