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有罪 19

 別に、声が聞きたいとかそう言った話じゃ、断じてっ! 断じて! ないんだけれど、それでも付き合おうと言ったんだから、恋人の声を聴きたくなるのが人間と言うものだとオレは思ってる。 「⁉ だ、だからってオレが聞きたいわけじゃなくて! 佐藤がオレの声を聞きたいんじゃないかって、思って  」  それだけ と言ってぱっと口を押さえた。  いつの間にか声に出てしまっていたらしい独り言を、周りに聞かれてやしないかと大慌てで辺りを見渡す。 「なぁに、不審者はっけーん!」  そう声をかけられて、背中をつんつんと突かれる。 「わっ」 「ケイゴ、お疲れ様」  目が悪いのか眇めるようにして人を見る癖のある同じ大学の友人、小西壱が何をしているんだ? とばかりに首を傾げた。  自分では胸中の呟きだったものがすべて外に漏れていたとしたら……それはもうただの奇行だ。 「あ、の、こ、恋人? の、連絡がなくてやきもきしてた」 「え? それって阿保ほど似合わないドレッドで自分カッコいい! って思っていた痛い彼のこと?」 「ちょ……あいつのことそんな風に思ってたの⁉」 「いや、命名は店長だよ。『クソださドレッド』」  壱はオレに向かってダブルピースをしてみせる。  別れる前に何度かアルバイト先に連れて行ったこともあったけれど、そんな風に言われていたのは地味にショックだ。  確かにオレもあのドレッドはどうかと思っていたけれど、似合う似合わないよりも自分が気に入っているようだから……と放置していた。  と、言うよりもその辺に口を出すと逆上してすぐに別れる別れるって言うから、もう見なかったことにするのが一番だったんだよね。  今思えば、指輪をナックル代わりに「似合わない!」って怒鳴りながら殴りつけてやればよかった……とちょっと思ってたりする。 「そのクソださドレッドじゃなくて  」 「え⁉ 二股⁉」 「じゃ、なくて、クソださドレッドには振られたの! そ、それで……今は恋人(仮)ができたの」  (仮)とは言え恋人ができたことを告げるのは気恥ずかしくて、もじもじと指を弄りながら告げる。 「あぁ、それで最近の店長のオーラが雑巾色だったのか」 「ぞ  ?」 「なんでもないよ。なんで(仮)なの?」 「振られたその日に付き合うことになっちゃったから……その、もっとよく知り合ってからってことで」  そう言うと壱の目が丸くなっていく。  何にそんなに驚いているんだ? って思わせるような表情の変化に、オレは何を言われるんだろうと身構えた。 「えらい! 学んだんだな!」  まるで小さな子供を褒めるような言葉に思わずこけそうになる。

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