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有罪 22

 どこまで首を突っ込むかをきちんとわきまえている壱に感謝しながら、もじもじとした気持ちで傍らにあるベンチに腰を落とす。 「  ────場所を移しますので少々お待ちください」 「え⁉ や、いいよ! もう切るから!」 「  ────切らないで! 大丈夫だから」  そう言う佐藤の後ろで幾人かの気配がする。  オレは明らかに仕事を邪魔してしまったんだってことがわかって、身を小さくして「ごめん」って呟くしかできない。 「  ────え? どうして謝るの?」 「仕事の邪魔をしたから……」 「  ────会議は煮詰まるからね、きっかけがあってよかったんだよ     ぁ、ぅん  」  さっとマイクから顔をそむけた気配がした。  電話ではなく、向こうにいる人間と直接やり取りをしているのがわかる声の遠のき。 「  ────これの資料追加したらどうでしょうか?」 「  ────それは、休憩の間にそろえることはできますか?」 「  ────そちらの部署のコピー機も貸してもらえれば」 「  ────いいですよ。私の部署の物も使ってください、手伝うように指示しておきますから」 「  ────助かります! ──さん」  そんな会話を、雰囲気を察知して黙って聞く。  「──さん」  うまく聞き取れなかったけれど、佐藤ではないその名前に佐藤が返事をしている。  聞き間違い……ではなさそうだ。  オレはこの名前を聞かなかったことにするべきか、それとも問い詰めて本名を聞くべきかで迷って…… 「  ────連絡をもらえて嬉しい……って、これはさっきも言ったな」  少し照れたような声音が本心なのか演技なのかわからなかったけれど、オレが今話している相手はなんの躊躇もなく自分の名前を偽ることのできる人間なんだとわかってしまったことに、一抹の寂しさに近い落胆を覚える。  別に聖人君子たれと言っているわけではなかったけれど、それ相応の誠実さを見せて欲しかった、それがなかったことが残念だと言う話なだけで、ただそれだけだ。 「……オレ、残念だって思ってる?」 「  ────? ケイ君? すまない、もう一度言ってもらえるかな?」  自分自身、ケイと呼ばれるのだからとケイトではなくケイゴと言う名前なのだと訂正はしなかった。  お互いの連絡先を交換する時に佐藤はわざわざどう言う字を書くのかと尋ねてくれていたのに、誤解を解くのを面倒くさがって「ケイトはカタカナでいいよ」なんて言ってしまったのだから、お互い様なのかもしれない。    自分のことを棚に上げて、佐藤にどうして嘘を吐いたのかと問いただせば、結局は自分の首も絞めることになる。  そして、オレが本来の相手じゃないと知れば佐藤は……

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