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有罪 24
やってしまったな……と思っても、覆水盆に返らずだ。
返事の返らなくなってしまった携帯電話を握る手に力がこもる。
「 ────それは 」
「じょ、冗談! 冗談だから!」
慌てて明るい声を出し、先程の言葉を何とか取り消すことができないかと試みてみる。
元恋人に『重い』と言われたばかりだと言うのに、オレはいったい何をしているんだろう!
「 ────朝しか告げてはならないのだろうか?」
「へ⁉」
「 ────朝以外にその言葉を送るのは、許されないことなのだろうか?」
あまりに堅苦しく聞き返されて、オレは言葉をすぐには返せなかった。
咀嚼して、佐藤の言った言葉がどう言った意味なのかをしっかりと考え直してから、「もしもし?」と声の漏れる携帯電話に向かって、
「いつでもどこでも、『愛してる』っていっぱい言って!」
そう叫んでしまっていた。
こうなってくると重い重たくないと言う問題の前に、人間性が問われてしまう。
オレは自分が酷く非常識なことを叫んでしまったことに、恥ずかしくて恥ずかしくて堪らなくなった。
急に上がった体温と動悸に急かされながら「嘘!」と叫ぶ。
「嘘! 嘘だから! 冗談だから! 冗談っ」
今更大慌てでごまかしてみたところでどうにかなるわけもなく、オレは一人でやってしまったと足をばたつかせた。
「 ────そうか、冗談だったのか残念だ」
「えっ……」
問い返そうとするオレの耳に、「資料が揃いました」とかけられる声が聞こえて言葉を遮る。
「 ────もう仕事に戻らなければならない。もう少し話していたかったが……愛してるよ」
最後の一言は低く潜められていた分わずかに掠れて、機械を通して聞いたと言うのに煽情的な感情を余さず伝えて……
「 っ!」
ぞわ と耳がくすぐったさに震えて取り乱している間に、通話は切れて通話終了を告げる画面だ。
それを見つめて、「あいつなんなんだ」と呻く。
冗談だと伝えたはずなのに耳をくすぐるような声で告げるなんて、なんか……なんかずるいと思ってしまった。
電話が通じたとは言え佐藤と次に会う日を決めたと言うわけではなくて、オレはやっぱりすっきりしない思いを抱えたまま安売りしていたキャベツを抱えながらアパートの階段を上がる。
築何年なんだろうと心配させるアパートは、倒れていないのが不思議なくらい一部傾いだ個所もあって今にもお化けか何かが出てきそうだ。
でも住めばなんとかの言葉通り、今ではこのアパートの一室がオレの家であり自分でつかみ取った城だった。
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