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有罪 25

 踏み抜かないように気を付けながらそろりそろりと階段を上がる。  細身のオレでもここのアパートの階段は上る時に腐食した部分を踏み抜かないかとどきどきしてしまうくらいだ。  だから、オレより大きな佐藤はここには呼べないな と考えて思わう吹き出す。 「あいつ、落ちる時も表情があのままなのかな」  独り言だと言うのに弾むように明るい呟きに自分で笑う。 「誰か、落ちたの?」  柔らかい声はオレの独り言に対しての返事だった。 「え⁉」  驚いたオレの足元で階段がぎぃと音を立てるから、嫌な汗をかきながら速足で二階の廊下を進む。 「姉さん!」 「おかえりなさい。ずいぶんと大きい独り言だったね」  叱るでもない、窘めるでもない声は柔らかで懐かしい。  今ではあまり見かけない真っ黒でサラサラの長い髪をハーフアップにして品のあるワンピースを着た佑衣子はオレの血を分けたたった一人の姉である。  薄く化粧をしているのとオレが明るい茶髪にしているせいもあってか似ていないように思えるけれど、幼い頃はそっくりだと言われていたくらい顔の似ていた仲のいい姉弟だ。 「ちょ っと、いいこと? が、あって……あ! いつから待ってた⁉ 連絡くれたらよかったのに」 「でも、ケイちゃんが授業中だったらいけないでしょう?」  少しおっとりとした物言いは、姉がどれだけ箱入りかを物語る。 「中入って! って言ってもお茶くらいしかなくて……あと、キャベツかな」  急いで鍵を開けて姉を通す。  物自体がほとんどないから散らかっているようなことはないけれど、掃除はちゃんとできていたかなぁと思いながら思わず辺りを見回した。  それはオレだけじゃなく、姉も同じ行動で…… 「相変わらずだろ? 窓開けたらいい風が入ってきて気持ちいいから……」 「ケイちゃん……大丈夫?」  姉はオレの顔を見てからもう一度部屋を見回して、さっと眉尻を下げる。  オレは住み慣れてしまったけれど、姉にとってはここはあまり訪れることのない場所であり、姉の生活圏では存在すらしないような古びた建物だ。  思わずそう尋ねてしまうのもよくわかる。 「うん、大丈夫」 「これっ……これを持ってきたの」  そう言って姉が差し出してきたのは白い封筒だ。  中に何が入っているか……なんて、考えなくてもわかることだった。 「姉さん、これはいらないよ」 「でも  」 「意外とこれでも余裕で生活できてるんだ。それにそんなことをして父さんに見つかったら大事だ」  派手ではないが、爪の先まで綺麗に手入れのされた手はオレのかさついている手とは真逆だ。 「これはっ私が働いて稼いだお金だから! お父さんに口を出されることもないわ!」  

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