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有罪 28

「うちの会社を継がせるのだそうよ」  姉はそう言うけれど、あの業突く張りの父が娘の婿とは言え他人に会社を渡すはずがない。  自分の血を引いた孫に会社を渡すためだけの繋ぎとして、突然の結婚でも唯々諾々と飲み込んでくれる操りやすい人間を連れてくるんだろう。  金か、脅したか……どう言った手法が使われたのかわからないけれど。  顔も見ていない相手との結婚を承諾させるくらいなのだから、よほどの手を使ったと思っていい。 「そん……そんなことに姉さんを巻き込むなんて……」  小さく苦そうな微笑が貼りついた姉の表情はすべてを諦めきっている殉教者のようだ。 「オレ、抗議してくる!」 「あの人は聞くような人じゃないわ」  娘からあの人と呼ばれてしまう父の下品な顔を思い出し、唾を吐いてやりたい気分になった。 「じゃあ……オレと一緒に逃げよう!」 「え⁉」 「オレがやってみて何とかなったんだから、姉さんを連れても逃げることができると思う! もっと広くていい所借りるからさ。こう見えても姉さんくらいなら養えるよ? そりゃ……実家と同じくらいの贅沢ってわけには行かないだろうけど。だからさ! 古臭い昔話じゃないんだから、そんな無理矢理結婚とかそんなの間違ってるって!」 「でも……」  大人しい姉は、父が決めつけたことに反抗することにも、安全に生活していける場所から逃げ出すことにも怯えているように見える。  一歩踏み出す勇気がないゆえに、怯えて自分の考えを希薄にしなければ生きていけないのだとでも言うようだった。 「あんな家の犠牲になる必要なんてない!」  叫んだ言葉が届いてくれたのか、姉はぱっと顔を上げてオレの好きだった笑顔を見せる。   「犠牲なんかじゃないわ! 大丈夫よ、少し驚いてしまっただけで……いつかお見合いして結婚するんだろうなって言うのは、昔から覚悟できていたし」 「そ、そんなの! 姉さんだって自由に恋愛でき    」  細く、可愛らしいピンクに彩られた指先がオレの唇を押した。  小さい頃に何度もしたことのあるその動作は、静かにとでも言いたいのかオレの言葉を奪ってしまう。 「ケイちゃんがしているのを見ているだけでお腹いっぱい」    ふふ と笑う姿は、恋愛小説を見て微笑んでいた幼い頃そのままの様子だった。 「そん……絶対、当事者になった方が楽しいから」 「楽しいだけじゃないでしょ? 切なかったり、悲しかったり、……苦手な感情も抱かなきゃいけないのは、やっぱり嫌だな。穏やかにゆっくりと毎日を送りたいの」

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