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有罪 29

 現実に戻った顔で姉は笑う。  箱入りだからか、元からの性格もあるからか、姉は人……特に男に対して臆病で警戒をもって接していた。それがまだ改善されていなかったことにほっとするべきではないはずなのに、とりあえず今は感謝したい気分だった。 「じゃあ、なおさら家を出て一緒に暮らそう! 結婚なんてしたらわけのわからないまったく知らない男と暮らすことになるんだよ⁉」 「あ……でも、あの人達は顔を合わせることはなかったじゃない?」  死中に活を見出したとばかりに姉は言うけれど、人生そんなうまくいかないのはオレが一番よくわかっている。 「あの二人はもう拗れに拗れてたからああなっただけだからね?」  オレの家は四人家族だったと言ったけれど、姉との二人家族だったのかもしれない。  なぜならオレが物心ついた頃には両親共に忙しくしていて家にほとんどおらず、寝に帰る……と言う言葉が可愛く思えるような生活をしていた。    一年で顔を合わせることが何度あるのか片手で足りてしまうほどの夫婦関係。  それなりの年齢になってからよくよく思い出の中の二人を思い出してみれば、お互いに恋人でもいたんだろうと言う怪しい行動が満載だったことに気づいた時は、夫婦である意味や家族である意味を考えて時間を無駄にしてしまった。 「それでも、まずは話をしてみて……立場だけで満足してもらえたら……」 「立場だけって   っ」    続けようとした言葉を飲み込んだ。  「跡継ぎは?」の言葉を言ってしまうと、姉にその顔も知らない相手とのセックスを意識させることになってしまう。  父の目的が自分の血を引く直系の孫を望むことなのだとしたら、何としてでも子供を作るように圧力をかけてくるはずだ。 「それだけに納得しなかったら?」 「?」  ぴんと来なかったのか、オレの言葉を懸命に考えてはいるが答えを見つけることができなかったらしい姉は、曖昧に笑顔を浮かべた。  大学へ行く道とは反対方向へと歩いていく。  幸い今日は講義もなくて勉強のために図書館へ寄りたいだけだったから、時間は遅くなっても構わなかった。  行く先は、父の会社。  無理やり娘を結婚させると言う暴挙に出た父にオレができることは多くない。  姉がオレの説得に応じてくれず、唯々諾々と従って見も知らない男の元へ嫁ごうとするのなら、他に打てる手としては父の元へ乗り込んで考えを変えさせるしかなかった。  実家で父を捕まえることができればよかったが、飛び出したあの日以降も父の生活スタイルは変わっていないのだと姉に聞いたためにそちらにはいかなかった。それならば直接働いているところへ行った方が、よほど捕まえることができると言うものだ。  

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