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有罪 32

「会社の犠牲? 何を寝ぼけたことを言っているんだ、佑衣子は逃げ出したお前の犠牲になったんだ」 「  っ」 「男としての役割も果たせん奴が、自分の代わりに犠牲になった姉の何を気にかけて偉そうなことを言っているんだ?」  弧を描いた両目。  吊り上がった片方の口の端。  全身から放たれる傲慢な気配にオレは…… 「そんなに姉を大切に思うなら、病気を治してガキの一人でも作ってきたらどうだ?」  しっかりと上げていたはずの視線は、いつの間にか体の横で震えている拳を見つめていた。 「男にケツを振るしか能のない出来損ないが。麩菓子のような頭でよく考えてからくるんだな」  吐き捨てるように言い、父はまっすぐに進んでオレを突き飛ばしてそのままエレベーターへと乗り込んでいった。  よろけたオレの目の前には奇妙な折れ目がついてしまった学生証だけが転がっていて……  わずかでも何かができると思っていたオレの心を打ち砕いた。 「確かに……家の犠牲じゃないよな」  姉は家じゃなくてオレの犠牲になったんだ。  おっとりとした笑顔を浮かべてはいたが、そのことを姉はわかっていたはずだ。  そして、自分が結婚しなくてもいい方法が何かも知っていて、家に残ると言ったんだ。  オレを連れ戻して父の望むように『治療』させれば自分は意に沿わない結婚をしなくて済むとわかっているのに!   「  っ」  それは、姉からの愛情だ。  見返りを求めず、弟に与えた愛情。 「 っ……」  姉はオレを責めることだって、恨み言を言うことだってできたはずなのに、そうしなかったのは……優しさなのか、諦めなのか。  そのどちらなのかはオレには判断できず、ただただ申し訳なさにうつむいた。  家を飛び出して生きていけると豪語して……何とかなっていると思い込んで慢心していた部分をへし折られた気分だった。  ザリザリと靴底でコンクリート擦るように歩いて、最初に行こうとしていた図書館への道をとぼとぼと歩くけれど、途中で足が動けなくなってしまって……どうにも足が動かなくて、よろけるように道の端にうずくまった。  自分一人で生きているような勘違いをしていたのと同様、涙を流すのも間違っているようで、涙を堪えながら膝を抱えた腕の中に顔をうずめる。  傍から見たら不審者だ、よくわかっている、それでも……そうだとしても自分の行動を止められなかった。   「  っ、  」  きっと、姉にごめんと告げたとしても、なんのこと? といつものようにおっとりと首を傾げられて終わってしまうだろう。    

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