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有罪 35

 もしかしたらそれが決定打だったのかもしれない。 「よ! ケイ!」  軽々しく何事もなかったかのように後ろから声をかけられて、聞こえなかったふりをしようかと思ったけれど、そんなことをしたら怒り出すのは目に見えている。仕方なく「馴れ馴れしく呼ぶなよ」って呻くようにして言いながら振り返った。  自分では似合っていると信じているドレッドヘアが特徴的なこの男が、かつての恋人だったのだと思うと……  時にははっきりと注意してやることが相手のためになるんだとオレに痛感させた。 「お前ナニしてんの?」 「人、と。待ち合わせ」  視線も合わせないままにツンと言ってやると、元彼の中でオレはまだ未練を残していると思われたようで、慌てたように「俺のこと待っててくれた?」なんて猫なで声で聞いてくる。  新しい恋人だと思われる人物とすぐそこで喧嘩していたくせに、元彼に声をかける神経が理解できなくて、オレはひりひりとする目で元彼を睨みつけた。 「あんたが別れるって言ってきたくせに、オレに未練でもあんの?」  微かに鼻で笑うような声音にむっとした表情を作ったけれど、元彼は逆上する雰囲気はない。  つまり、オレを逃がすとまずい状況……ってことは、金がなくて溜まってるってことだ。 「別れるって言ったのはあんただろ?」  この場から動く気はなかったけれど、これ以上やり取りをするのは不愉快すぎた。  どこか店を見つけて佐藤に連絡を取ると言うひと手間を行えばいいだけなんだから、オレはさっさと元彼の目の前から退散することにする。 「おい! 待てよ!」 「……」  関係のない相手とだらだら喋る気はなかったから、元彼の頬を張った人と同じようにさっと踵を返す。  そうすると角から佐藤の顔がひょっこりと現れて、走ってきたんだとわかる肩の弾ませ方をしながらオレに向けて駆け寄ってくる。  運動に剥かないスーツで、どれだけ急いできてくれたのかを考えると、くすぐったいような気持になってはにかむようにして「待ってた」って告げた。 「お お待たせして、す いません」  はぁと吐き出される息で言葉が途切れる。 「ごめんな? 走ってきてくれて嬉しい、喉が渇いたろ? 自販機探そっか」 「あ……いえ、それならどこかに入ってゆっくりお茶でも飲みましょう、ゆっくりお話しを聞きたくて半休を貰って来たんです」 「え⁉ わざわざ?」 「俺もケイ君と一緒にいたかったんだ。  ────愛してるから」  さすがに白昼の往来で言う言葉としては恥ずかしかったのか、佐藤はわずかに耳の端を赤くしてそっぽを向いてしまった。

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