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有罪 36
「おい! 何してんだよ! どう言うことだ!」
オレと佐藤のやり取りをぽかんと見ていた元彼が、照れくさくてできたわずかな会話の隙に割り込んでくる。
「待てって! 俺は飽きたとは言ったが別れるなんて言ってねぇぞ!」
腹から絞り出すような声はびりっと鼓膜を揺さぶって人に恐怖を与えようとしているふうに思えた。
「は?」
「俺が送ったのは『お前重すぎ、飽きた』だけだったはずだ」
にやぁ と笑う元彼の目は、佐藤の頭から爪先までを舐めるように眺めて……悪いことを考えているのだと教える。
「その後、連絡全部ブロックしといて何言ってるんだよ!」
元彼に貸したままの小物とか、小金とかを返してもらいたくて連絡を取ってみたが電話もSNSも綺麗さっぱりブロックされて連絡がつかなかった。
別れてないのだとしたら、その仕打ちは何だと言うんだろうか?
「アレはただのお仕置きだって! お前ちょっと出しゃばりすぎだからさ、お仕置きしたら自分の立場? ってのがわかるだろ?」
「……立場?」
「俺に突っ込んで貰わないと、かなちくてちんじゃぅ~って奴」
ぞわ と、まるで火にでも触った時のような鳥肌が立った。
「言ってくれたことなんでもしゅるからあいちて~ってさ! はははは!」
機嫌が悪い上にオレが新しい相手を見つけていたことが気に障ったんだろう。
酷薄そうな目が見下ろして、どういたぶってやろうか考えているような性の悪い顔がにやにやと笑う。
「ああ、でもお前、お仕置き大好きだもんな? 俺がお仕置きって言うと嬉しそうになんでもしたし! エッロかったよな? 目の前で他の男に犯ら っ」
悪寒が震えに代わろうとした時、元彼が大声で喋ろうとしていた話が不自然に途中で途切れた。
「な 」
「すみません、蜂が止まっていたので払おうと思って。刺されるといけませんから」
体の大きい佐藤が作った握り拳は大きくて、オレが両手で包み込めないほどのサイズだ。
「ぉ……おお、そうかよ。……と、とにかくこいつと俺はまだあつーい仲の恋人ってわけだから、浮気相手は消えて貰える? あ! もちろん慰謝料は置いてってもらえるよな? 俺はあんたたちが浮気しててすごーく傷ついたんだから100万くらい貰わないとだ!」
頬を張られて気まずそうにしていた様子はどこかに吹き飛んでしまっていて、元彼は不適そうに笑いながら佐藤をねめつけるようにして見ている。
「そんな金払う必要なんかあるわけないだろ!」
そう怒鳴りつけ、佐藤と元彼の間に割り言って胸を押す。
佐藤のと違って骨を感じる胸をつくと、元彼はあっさりとよろめいて尻もちをついてしまった。
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