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有罪 39
面はゆい気持ちにもぞもぞと幾度も座り直しているうちに、チーズケーキと飲み物が運ばれてきてちょっと空気が変わってくれた。
さっきまでの雰囲気が嫌ってわけじゃなかったんだけど、落ち着かなくてくすぐったくて……そわそわしてしまうから。
ケーキはベイクドチーズケーキで、もったりとした重めの生地が特徴だった。
その分濃厚なチーズの味わいと厭味ったらしくない後を引くチーズの風味が堪能できて、佐藤が「絶品なんだそうだ」と言っていたのもうなずけると言うものだ。
思わず感想を言う前にぱくりと二口目に食らいつく。
「気に入ってもらえたようだな」
「! ……うん、美味しい、です」
がっついてしまったことが恥ずかしくて、三口目はアイスコーヒーを飲んでからにすることにした。
「今日は、何があったんだ?」
うきうきとアイスコーヒーに手を伸ばす様子から、もう大丈夫だろうと思って尋ねてくれたんだろう。
オレはストローに添えていた手を止めて、飲むためではなく弄るために指先を動かした。
姉が政略結婚させられる?
それがオレの身代わりだ?
昔の男に絡まれた?
どれも今のオレには大打撃な案件で、できれば目の前のチーズケーキを美味しく食べたかったからあえて目を反らす方を選んだ。
「うん……ちょっと落ち込んでた」
「ちょっと?」
「うん、ちょっとだけ」
そうは言っても、いい年した大人が目を赤くするくらいまで泣いているんだから、誤魔化しだってわかるだろうけれど。
「だから、佐藤が連絡くれて嬉しかった! おかげで気分が浮上した!」
無理やりに口角を上げて笑った表情を作るオレに、佐藤は少し疑いの混じった視線を返してくる、でも……佐藤がいいタイミングで電話をくれて、救われたのは事実なんだから。
「そう言えば、佐藤の用事はなんだったの? オレの声を聞きたくなった?」
照れ隠しも含めて、ちょっとシナを作ってぱちんとウインクついで問いかけてみるけれど、佐藤は笑い返してはくれなかった。
「知り合って間もないし、君のすべてを知りたいと言っても警戒もあるだろう。だから、これからもゆっくりと知って、ケイ君が悩みをすべて打ち明けられるような存在になりたいと思うんだ」
「へ?」
フォークの先がチーズケーキを貫通してカチンと硬い音を立てた。
佐藤がカバンの中から艶のある小さな紙袋を取り出したのが見えて……思わず背筋が伸びる。
「正式に、付き合ってくれないか?」
場所が違えば、佐藤は膝を負傷した兵士のようにオレの前に座り込んでいたかもしれない。
両手で差し出された革張りの箱には「kete」と言うブランドロゴか刻まれていた。
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