44 / 86
有罪 43
「ケイト、愛してるよ」
熱っぽく呼ばれた他人の名前に慌てて首を振って誤解を解こうと思ったけれど、今はとにかくそんな時間があるなら佐藤と絡まり合いたくて……
「ケイって呼んで欲しい」
うっとりとした表情で胸の突起に唇を這わせている佐藤にそう言うと、にっこりと微笑んで「ケイ」と返してくれる。
唾液にまみれた乳首をこね回しながらオレを見下ろす佐藤は満足そうだ。
「ケイ」
「ぁ えぇっと……」
佐藤 と呼び返しても、佐藤は佐藤と名乗っているのだから差し支えないのはわかっている。
けれど……
「アキヨシ」
「アキヨシ?」
オレの意を汲んでくれたのか、教えられた名前を問いかけるように呼ぶとこくりと頷く。
佐藤なんて偽名じゃなくて本当の名前を教えてもらえたんだって、嬉しくなる。
今までの恋人達では感じることのできなかった充足感と充実感、一方通行ではないと思える心の満ち足り方が……
オレを本当に幸せなんだと思わせた。
その後のオレ達の付き合いはと言えば、社会人と学生と言う使える時間の違いからなかなか会えはしなかったけれど、会うと必ず濃密な時間を過ごすのが常だった。
こちらが恥ずかしくなってしまうくらい真剣に告げられる愛情のこもった言葉と、誠実さを滲ませて触れてくる姿に、オレはただただ浮かれていた……のだけれど、アキヨシから「仕事が少し立て込んでいます」と言うそっけない一文を最後に会えていなかった。
何度か、邪魔になるかな? と思いつつも、忙しいからって食事抜くなよってメールを送ってみたけれど、返事もなくて……
あまりにも突然のことだったから、オレはのんきにその内に仕事が落ち着いたら連絡をくれるだろうと思っていた。
飽きられたかな? なんて、今までの習い性のためかそんな考えがちらりと頭をもたげるも、外した指輪の内側を見てそんなことはないと寝転がる。
内側に彫られた『akiyosi』の文字と、ひっそりと嵌め込まれた光を反射する透明な石を見つめた。
きっと、アキヨシの方にはオレの名前が彫ってあるのだろう。
ベタベタなそれに気恥ずかしさを感じつつも、同時に後悔もしていた。
向こうに彫られてるのは、ケイトって名前だ。
「……嘘吐かなきゃよかった…………」
掠れた声で呟いたからか、独りだけだからか酷く寂しく思えてきて、こんな季節だと言うのに寒い気がして自分自身をぎゅっと抱きしめた。
「あ゛ー……」
声を出してみて、それがいつもと変りないかと言われたら……変わりすぎている。
とは言え、これでもよくなった方で、熱が出始める少し前は喉が腫れ上がってきちんと音もでなかった。
ともだちにシェアしよう!