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有罪 44

 風邪をひいたと思った時にはもうすでに遅くて、まず喉の痛みが出てしまっていた。  姉にはうつしたくなかったから自分で何とかしなきゃって、熱ではぁはぁ言いながらなんとか医者に行って、喉に優しい食べ物や飲み物を買って……  家を出てから風邪をひくことはあったけど、彼氏が看病なんてしてくれたことはなくて独りで乗り越えることには慣れていたけれど、どうしても拭えない寂しさはあった。  けれど今回、独りで熱の合間に見る天井が寂しくないのは手を伸ばすとアキヨシからもらった指輪が目に入るからだ。  今回の風邪のせいで少し緩くなってしまったかな? と思いつつ指輪をくるくると撫でまわす。 「アキヨシー……指輪のサイズ変わったかもよ?」  自慢じゃないが男にしてはほっそりとした指は爪の形も縦長で綺麗とよく褒められる。  アキヨシからもらったこの指輪が似合う指をしていてよかったと一人で小さく笑っていると、枕元に置いてあった携帯電話が小さく振動を伝えてきた。  大学の友人達とバイト先の店長からはすでに連絡が入っていたから、今度こそアキヨシかもしれない! と慌てて飛びつく。 「  っ」  並んだ数字は見慣れているようで疎遠なものだ。  登録していないから名前は出てなかったけれど、小さな頃から慣れ親しんだ電話番号を忘れるはずはなかった。    オレをホテルの入り口で出迎えたのは母親だった。  父に逆らうことのできない母は、オレがゲイだとわかってからこちら目を見て話をしようとしなくて、久しぶりに会ったこの日も視線は顔ではなく足元をさまよっていた。  今更……それにどうこうと文句を言うわけではないけれど、都合のいい時にだけ家族であろうとするその姿勢にはイラつきも感じていて…… 「家族の顔合わせにオレなんて呼んでよかったんですか?」  上品な着物に身を包んだ母は最後の記憶よりも少し老けたようだったけれど、それでも年齢よりは随分と若く見えるんじゃないだろうか? 「お相手があなたのことも知っていたんだから、しょうがないでしょう」  視線が合わないままそう言うとついてこいとも何も言わないままに、母は背を向けてしまった。  姉の縁談の相手がオレの存在を知らなければ、そのまま隠し通したのだとあけすけに言われて……素直に後をついていくのを億劫に感じてしまう。できもしないのにロビーの床に転がって駄々の一つでもこねてやろうかと自嘲の考えもよぎるが、ぐっと堪えて一歩を踏み出す。  こんな扱いをされても大人しく従うのは、オレの考えとは裏腹に姉がこの結婚を前向きに考えているからだった。    

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