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有罪 46
「ケイ⁉」
短く上がった声は鋭くて、身を竦めたくなる。
「ア、アキヨシ……なんで?」
「もしかして後をつけて……?」
「オレの方が先にここにいただろ!」
さっくりと言葉を返すと、アキヨシは慌てている素振りを隠しもしないで曖昧に頷きながらこちらへと大股で歩いて……
乱れた息と少し汗ばんだ肌が見えて、そんな場合じゃないってわかっているのにどきりと胸が鳴った。
「こっちにっ!」
後ろをさっと見たアキヨシがオレの手を引いて個室へと飛び込む。
ホテルの個室トイレとは言え、大人の男が二人も入ればどこか息苦しく感じて喘ぐように息を求める。
オレは、息がしたかった。
ぎゅうぎゅうに抱きしめられているせいで肺がうまく動かなかったし、狭い個室にいきなり二人で入ってしまってパニックになってしまっていたせいもある。
なのにどうしてだか唇はアキヨシの口元へと導かれるようにして近づいて行って……姉の結婚相手との顔合わせのホテル、しかもトイレの中だって言うのに貪るようにその唇に食らいついてしまう。
少し肉厚で、しっとりとしていて熱い、オレが欲しかったものだ。
くちゅ と水音が耳をくすぐって、角度を変える合間合間に「こんなこと、してる場合、じゃ、な い」とお互いに口に出していたが、けれど離れようとする雰囲気は一切なかった。
「 ────っ」
うっとりと脳を撫でられるかのような痺れる感覚を堪能していたと言うのに、無粋に割り込むような音がガチャリと響く。
他の客が入ってきたんだろうとちょっと水を差された気分で顔をしかめると、アキヨシが「しっ」と人差し指を唇に押し当てた。
その姿がセクシーだ、なんてのんきなことを思っていたのに、アキヨシは真剣な顔で便器の上に足をかける。
「?」
口パクで「どうした?」と返してみるも、アキヨシは「しっ」を続行中だった。
────コンコン
乾いた甲高い音はすぐ近く……オレの顔のすぐ傍の扉から聞こえて、思わず飛び上がりそうになった。
個室は全部で三つあり、他の二つが空いているのは確認済みだったから、わざわざこの個室をノックする意味が分からない。
「秋良」
扉の向こうから聞こえていた壮齢の男性の声にさっとアキヨシの顔を見た。
名前を呼んだと言うことは、この扉の向こうにいる男性はアキヨシの知り合いと言うことで、返事をしなきゃまずいんじゃないかとどっと汗が噴き出す。
男とトイレに入っていた……なんて、アキヨシは知り合いに知られたくないだろうから、何かいい考えを思いつかなくちゃならない。調子が悪くて吐きそうだったのを介助してもらっていたと言う言い訳を思いつき、アキヨシを見返して…………
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