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有罪 50
見るからに痛々しいその腕を見て、他人事のように麻酔が切れた時に痛みそうだな……なんてぼんやりと思う。
「よかった」
姉が安堵の笑みを浮かべる。
優しい笑みだ。
混乱しながらも泣きながら微笑む姉の姿を見ているとほっと安心感が湧いてくる、そうするとゆっくりと何もわからずにいた脳みそに記憶が蘇ってきて……
「姉さんっ! オレっオレ! 何……っなんでここにいるの⁉」
上手く動かない体で跳ね起きようとしたために、姉が大慌てで押さえつけてくる。
いつもなら「動いちゃダメ」って姉に言われたら素直に言うことを聞くのに、今はそれに素直に従うことなんてできなかった。
「 どこっ」
掠れた悲鳴のような言葉の合間に、姉がナースコールを押す。
「オレっ一緒に乗ってただろ⁉」
姉を押しのけてベッドから転がり落ちたオレはしたたかに体中を打ったけれど、不思議とどこも痛みは感じない。
ぐにゃぐにゃとして力の入らない手足を懸命に動かして病室の外へ向かおうとした時、扉ささっと開いて看護師が駆け込んできて……
その後は何を叫んだのかわからないけれど、オレの傍にアキヨシがいないことだけは確かだった。
アームホルダーで腕を固定したオレは看護師に頭を下げ、入院中の非礼と世話になったお礼を告げる。
アキヨシを探してくれ! と暴れるオレを宥めるために看護師達には随分と苦労を掛けてしまっていた。
同じ事故に遭ったにも関わらずオレとアキヨシは同じ病院に運ばれてはおらず、この病院に『佐藤アキヨシ』と言う人物が入院していなかった。
郊外の多重衝突事故だと後から詳しく説明を受けたが、その日に工業プラントの火災も重なって近隣の様々な病院に搬送されたからじゃないか と看護師は説明してくれた。
体が動くようになって、「苗字が違うじゃないか!」って思い出したからふらふら病棟を端から端まで歩いて確認してみたけれど、やはり「アキヨシ」と言う名前の患者はいなくて……
携帯電話はぐしゃぐしゃですぐに使える状態じゃなくて、直接連絡を取ることもできない。
どこに住んでいるのかも聞いてなかったから、直接向かうこともできなくて……もし、アキヨシが違う病院で目覚めてオレを探したとしても、名前が違うんだから見つけようがないんだって気づくと今にも気が狂いそうだった。
それに、オレのようにケガだったらまだいい。
オレを庇うように覆いかぶさってきたアキヨシのケガが、オレの腕以上に軽傷だとは思えない。
最悪……最悪 だ。
ニュースや新聞を見てもアキヨシの名前は見つからなくて、生死もわからない、何もわからない、そんな状態は足元が崩れていくんじゃって思わせる生活だった。
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