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有罪 52

 いつからだろうか? 少し困ったような笑い顔で結婚の話をしていた姉がにこやかな笑顔を見せてくれるようになったのは。  オレの入院やリハビリに付き添って忙しそうにしているのに、充実感を滲ませた生き生きとした雰囲気を纏い始めて……  『西宮さん』の名前を口にする度に皮膚の薄い目元がほんのりと色づいて、元々綺麗だったけれど更に綺麗になったと、身内の欲目を引いても思う。  ましてや今日の姉は、オレが今まで見た中で一番綺麗なんじゃなかろうか?  真っ白なマーメードラインのドレスが華奢な体によく似合っている。   「そりゃくるよ、姉さんの結婚式なんだから」  家族の顔合わせを抜け出して大怪我を負ったせいもあって、今回も参加しないんじゃと思われていたのはいささか心外だった。  婚約者と幸せそうにしている姉が羨ましいと言う感情を持ち合わせてもいたけれど、それでもオレは姉を心から祝福したくて仕方ないのだ。    政略結婚を前面に押し出した、姉の気持ちを置いてきぼりにしたものならばいざ知らず、姉自身が本当に幸せそうだから…… 「ものすごく急な話だったでしょう? 圭吾にも用事があったらって  」 「いや、それでもこっち優先するよ」  真剣に返したオレに華やかな笑みが返されて、胸の中にある燻るような黒い感情を吹き消していく。 「ありがと。せっかく似合ってたのに、髪を黒くしちゃったのね」 「ん? んー……似合わない?」  珍しく電話をかけて来た母親から口を酸っぱくして言われ、うんざりとした気持ちで染め直した髪を引っ張る。  元々オレも姉も日本人にしては明るい髪色と瞳を持っているせいか黒く染め直した髪は不自然に浮いて見えてしまい、大学の友人には気づかれなかったりもした。  今のオレよりも自然な茶髪の姉の方が、以前のオレによく似てるんじゃないかって思うほどだ。 「大丈夫、黒髪も似合ってるよ」  染め直したために少しごわつく髪をちょいちょいと指先で整え、姉はやっぱりにこにこと幸せそうだった。  オレが姉を自由にしなければと考えたあれやこれやは全部取り越し苦労だったわけだけれど、それも今ではよかったんじゃないかって思わせてくれる。 「姉さん」 「うん?」  照れくさそうに首を傾げる姉に「幸せ?」とポツリと問い返す。  姉は、一瞬だけ瞳の中を揺らめかせてオレの様子を窺って……それからゆっくりと頷いた。  あの事故直後にオレが佐藤と言う人間を探していて、それがオレにとってどう言う相手かを察していた姉は、自分一人幸せなのが許せなかったのか、綺麗に整えられて化粧の施された眉尻を垂らす。    

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