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有罪 57

「じゃあ、こんなものもういらない!」  オレが拳を叩きつけたせいかアキヨシは驚いたようだったけれど、反射的に胸元に零れ落ちたそれを掴み取る。  急に振るわれた暴力に明らかに不快感を示してはいたが声を荒げることもなく、「争う気はない」と威嚇するように言った。  刺々しい……突き放した声に、オレはもう真っ直ぐにアキヨシに視線をやることができなかった。  よた と二、三歩だけ後ろによろめいてからさっと駆け出す。  後ろから「圭吾くん!」と鋭く呼ぶ声が聞こえたけれど……オレが振り返ることはなかった。  美しい花のステンドグラスを眺めながらいたたまれずに、背中を丸めるようにして座る。  アキヨシに指輪を投げつけた後、さっさと会場から飛び出せばよかったのに花嫁の控え室の前で話していた父に見つかって……  嫌と言うことも許されないままにチャペルの親族席である最前列に座らされ、オレは傍らの気配に怯えるしかなかった。  皺くらいはできているかと思ったのに、アキヨシの着ているタキシードにはオレとのひと悶着の面影もない。  まるでオレ達の関係のように何事もなかったかのように整えられた姿を、真正面に見る勇気もないままに死刑執行を待つ心持で目の端に捉える。  今ならまだ、間に合うんじゃないかって自問自答して、何に間に合うって言うのかと更に自問自答して……  何をしたらこの間違いは正せたんだろうか?    結婚を中止しろと言えばよかったのか、  姉にすべてをぶちまければよかったのか、  参列しなければよかったのか、    親族席に座らなければよかったのか、  ケイトのふりをしなければよかったのか、  好きにならなければよかったのか、      それとも、アキヨシに出会わなければよかったのか?  どこから間違えて、オレはあれだけ大事だった姉の夫と寝ていたんだろう。  政略結婚だとわかっているのに、どこか嬉しそうにして前向きに向かい合っていた姉に砂をかけるような行為をしてしまっていた。  アキヨシの本性が、結婚を前にして花嫁以外の人間に愛を囁けるものだったなんて、気づかなかった。  本当に……気づかなかっただけなのに、でもその結果オレが負ってしまった罪は計り知れない。 「式の間ぐらいは顔を上げていろ」  花嫁と共にヴァージンロードを歩く役割を終えた父が、オレの隣に腰を下ろしながらぐぃっと脇腹の皮膚の薄い部分を拳でえぐるように小突く。  周りから見えにくく、服の下で気付かれにくい場所をそうやって殴ってくるのは、昔から変わらないままだった。    姉に対する罪悪感で押しつぶされそうになるけれど、ぎろりと睨みつけてくる父がいる以上どうしようもない。

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