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有罪 58

 オレは口の端が引き攣るのを感じながら口角を引き上げ、ガチガチと鳴りそうな歯を食いしばって顔を上げた。  純白のペールに包まれて、初めてみる表情をした姉はこれ以上なく美しかった。  それは単純に顔かたちだけの問題ではなくて、内側から幸せなのだと滲みだすような輝きがある姿だ。  ステンドグラスに反射した光が瞳に映って、きらりと宝石のような目で相手を一心に見つめる、そのひたむきな横顔は花嫁にあこがれる子供が理想とするような表情だった。  幸せ以外の何もその場に要らない。  そう言われたような気がして、不貞の証拠であるオレはよろりと身を引きそうになる。  姉の手を取って満面の笑みを零すアキヨシには一点の曇りもあってはならないと、自分自身が汚く、おぞましく、存在さえしてはならない呪われた生き物になった気分で。  どうしようもない情けない気分は、もう涸れたと思っていた涙を引き連れてきてしまった。  色鮮やかな様々なガラスで紡がれる花の輪郭がぼやけて、目の縁に熱いものが盛り上がる。   「  ────それでは、指輪の交換をしてください」  朗々としたよく通る声がそう告げて、二人はリングピローから持ち上げた銀色の指輪を照れくさそうに見つめてお互いの指にはめていく。 「    」  一瞬、指輪を光にかざすアキヨシの目がさっとオレに向けられたような気がした。  いや、実際にオレに向けられて……手元の銀色の輪っかとオレをさっと見比べて……  オレ達の関係を知っていなければ、ただ本当にアキヨシが指輪を皆に見せるためにかざしたようにしか見えなかっただろう。  けれど、アキヨシは明らかにその瞬間、涙を流したオレを見て狼狽えたのだった。  揺れる瞳は目の前の姉ではなくてオレを見ていて、はっきりと驚きの様子を伝えてきている。 「…………?」  いまさら何を驚いているのかと訝しんでいると、指輪を姉の指に差し込む瞬間にアキヨシは確かにオレの方に向いて声は出さないままに唇を動かしてみせた。   「  ────ケイ」  その名前が音と言う形をとならなかったことにほっと胸を撫で下ろすも、今度はアキヨシがその瞬間にそんなことをした疑問は解消されなかった。  スリルを楽しみたかったのだろうか? 花嫁と指輪の交換をしようとした瞬間に呟く元愛人の名前。  それに何の意味があるのかなんてオレにはさっぱりわからないまま、粛々と締めくくられて人々に見送られながら出ていく二人を見送った。  中庭での撮影の後、スタッフの促しでそのまま披露宴なのだと言われてそちらへと移動するように言われて……うまく隙をみて抜け出すことはできないかと思ってもいたがそれも叶わず、気まずいままに名前の書かれたテーブルへと着く。  

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